素晴らしい演奏だった。今回は友人の伝手で最前列の席であったため、視界は抜群。すぐ前のオケピットから個々の楽器の音はよく聞こえた。
身長が低いKiril Petrenkoのようよう見える横顔と、高く挙げられた両手にしばしば見とれる時間であった。
静謐で精密、きらびやかさはない水墨画のような音作り。指揮をする手は絵筆をとっているようだ。どうしたらこのような品のいい颯爽とした音になるのだろう。
その前にちょうど威勢はいいがずっこけ気味のサンカルロ劇場のオケをきいたばかりだったので、ただただ「巧い!」と感心するばかりだった。
ソリストや合唱のうまさも言わずもがなで、それぞれたっぷりと魅力のある歌をきかせてくれた。タイトルロールは5月に同プロダクションのプレミエでロールデビューしたばかりのKlaus Florian Vogt…私はもともとこの人の声は好きだ。でも、まだタンホイザーとして納得できるものではなかった。いつものように音符は正確に、きちんときまった場所に音も当たり、はずさない。渾身のローマ語りもいい出来だったと思う。でも、終局前のタンホイザーの救済の望みを断たれた絶望感は伝わってこなかった。まだ赦されるものの余裕があるように感じた。
エリーザベトのDash嬢の声も可愛らしくて純粋なのだが、佇まいがいまいひとつ姫っぽくない。プレミエのキャストHarterosはその点より「らしい」のであったろう。私はDash嬢の声も姿も好きなので、なんだかんだ言っても観てるだけで楽しかった。
ヴェーヌスもひどく好みだった。男性陣ももちろん堂々たる歌唱。