リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

パリ再訪、オペラ座ストライキ騒動

パリの国鉄ストライキは続いている。5月の《パルシファル》では劇場の設備トラブルにより前半の舞台がキャンセルになる事件があった。その後はつつがなく上演されていると思いきや、なんとオペラ座職員の賃上げ交渉のためのストライキが始まってしまった。
比較的恒常的に行われていることで、昨年観たパリオペラ座のドキュメンタリー映画『新世紀 パリオペラ座』でもしっかりその様子が描かれていた。*1 
こういうことを想定して可能ならば2回公演を観る予定にしているのが私の常である(そのおかげでパルシファルは1回観ることができた)が、今回は仕事の都合でそれがかなわなくなった。つまりばっちりストに当たるかもしれない。
私が持っていたのは6/29のきっぷ。6/25と6/26は公演がキャンセルになってしまった。
キャンセルしそうだからと言って、行くのをやめるわけにはいかない。自分の強運に賭けて出かけた。
乗継の時点でZhenyaからストライキでキャンセルの可能性があることを知っているかとメッセージが届いた。
到着後も「85%キャンセルになると思う。プランBはあるか?」と言ってきた。「日本ではストライキなんかないよ」「ここはフランスだ。そういうカルチャーなんだ。ストライキをするのがフランスのカルチャー、しないのは日本のカルチャー。その違いだけだ」

翌日(公演当日)昼過ぎには告知が出る。その日の《トロバトーレ》は演奏会形式になっていた。29日分のボリスもおそらく演奏会形式になると私は予想していた。
果たしてその通り、舞台セットはなし。多少の衣装は有りの演奏会形式とメールがきた。キャストにはその少し前に連絡が来ていたので「no set」というのはわかっていた。
通常は公演中止でない限りリファンドできないが、演奏会形式になったことで客側にリファンドするかそのまま観劇するか別の公演に振り替えるか選択できることになった。余分にきっぷを買っていたの*2をリファンドできたのはすこしラッキーだったかな。
3年前に一度、フィレンツェで同様のストライキから演奏会形式上演になったことがあった。ストライキ耐性もその時よりは上がっていたのか演奏がとても素晴らしかったせいか、結局は満足度の高い鑑賞経験になった。レポートは次の記事で。

 

*1:映画では組合交渉がうまくいって無事に上演された

*2:当初2回みるつもりで29日分は少し遠い席を買っていた。1回鑑賞に決めた時に最前列を買い直したため2枚持っていたのだ

ツァーリと民衆、そしてこどもの死 パリオペラバスチーユ《ボリス・ゴドゥノフ》雑感

 現在パリオペラバスチーユでは、ムソルグスキーのオペラ《ボリス・ゴドゥノフ》の初稿版が上演されている。1869年初稿版はここでは初上演とのことだ。指揮はVladimir Jurowski 演出はIvo van Hove である。
このふたりの指揮(音楽、舞台において)によるこの上演は非常に有意義であると私は考える。言わずと知れた Ivo van Hove はシェイクスピアの悲劇演出について高名である。(シェイクスピアの悲劇で彼が手がけていないのは《リア王》だけ。これも演出をする予定はあるそうだ)《ボリス・ゴドゥノフ》はシェイクスピアの《マクベス》《ジュリアス・シーザー》《リチャード3世》のテーマを引き継いだ史劇として語られることも多い。特に王位簒奪者ではあったが実際は為政者として評価すべき人物であったマクベスとは似ている部分が多く、しばしば引き合いに出される。
V.Jurowski は、初稿版の音楽的価値と優位性を表現する上演をすでに行っている。

 

lyudmila-galahad.hatenadiary.jp

 上記は再構成版と言っているが、楽譜自体には手を加えておらず、現代的な舞台とHIPな演奏は矛盾することはないとの意見である。今回のパリオペラ座の舞台はユロ兄の追及する《ボリス》がさらにスケールアップしたものではなかろうか。

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Fidelio at NNTT 27052018

ネタばれがありますので、これからのご鑑賞の方はご注意を。

何かと舞台演出が話題になってる新国立劇場新制作《フィデリオ》、簡単にいうと…

第1幕:モーツァルト風味《トスカ》

第2幕:モーツァルト風味《トリスタンとイゾルデ》とベートーベン作曲《アイーダ》のミクスチュア (レオノーレ序曲付き最終稿による)

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シャルトルの中世祭り

行きたいと思っていたクリュニー中世美術館が7月まで閉館とのことで*1、どこに出かけようかと少し考えた。国鉄はストライキ中だが、週3、4日は間引き運行している。よし、シャルトルへ行こう。所要時間は1時間半程度だし。メトロでモンパルナス駅まで出て国鉄の駅に行ったらシャルトル方面へ行く電車の出るホールはえらい遠かった。
やっとたどり着き窓口は閉まっていたので券売機で切符を買おうとするとチップ付きのクレカしか受け付けてくれない。そのようなクレジットカードを持ってこなかったためどうしたらいいのかと考えることしばし。海外の鉄道切符をオンラインで先に買うのはしょっちゅうしているんだから、とSNCFのアプリをダウンロードしてそこから購入することにした。これならプリントしなくてもモバイルチケットがアカウントから見られるので何の手間もいらない。電車は通常1時間に2本のところ1本になっていた。1本見送り、次の電車が来るまでには何とか切符の準備ができた。(ただ、これもストライキのせいか、検札も来なかった・・・)

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Parsifal at the Opéra Bastille, matinée 13052018

Richard Jonesによる新演出《パルシファル》、多くの人々がプレミエの日を待っていた。が、しかしゲネプロが行われようという日の前に衝撃的な告知が出された。「舞台奥の防火用扉のワイヤーロープが2本切れたため、点検と修復の必要有り。《ロミオとジュリエット》および《パルシファル》の4月中の公演は中止」その後また変更告知があり、結局プレミエは5月13日ということになった。ゲネプロは10日。私はちょうど10日と13日のきっぷを持っていた。きっぷは返金か同シーズン内の公演に振替が可能ということだったので10日にボックスオフィスまで出向いて返金してもらった。*1ちょうど出かけた時間はゲネプロが始まる直前で、たくさんのスタッフがボックスオフィスの前にも待機していた。心なしか無事に再開できてよかったという雰囲気があったように思う。
ZhenyaとマネージャーのCさん両方から防火扉事件の話を聞かされ、劇場関係者のうんざり具合はわかった。日本からだって遠征予定でずいぶん泣いた人が多かったのよ、と見る側の悲劇も説明しておいた。

プレミエ当日、満席の劇場には当然ながらものすごい期待の雰囲気がいっぱいだった。
私がオペラバスティーユに来るのはこれが2回目。この前はやはりP.Jordan指揮の《神々の黄昏》だった。

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以前は横断幕だったのがデジタルサイネージになっている



Direction musicale: Philippe Jordan
Mise en scène: Richard Jones

Amfortas: Peter Mattei
Titurel: Reinhard Hagen
Gurnemanz: Günther Groissböck
Klingsor: Evgeny Nikitin
Kundry: Anja Kampe
Parsifal: Andreas Schager

*1:クレジットカードに返金してもらう、の一択しかない

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ストレスフルなパリへ

新年度からあっという間にGWも過ぎ、ボケボケしている間にパリに発つ日が来てしまった。

現在フランスは国鉄SNCFがストライキ中*1、便乗なのかエールフランスもストライキ。
列車で移動せず、エールフランスに乗らなきゃいいと思っていたら、目指すパリオペラ座バスティーユで事件が起きた。
舞台奥の防火扉のワイヤーロープが2本切れたので、その修復と点検のため劇場がクローズしてしまった。4/27が初日の《パルシファル》は5/10分まで休演。5/13マチネで再開ということになった。
該当のきっぷはリファンドか同シーズン中の演目に代えてもらうことができる…とサイトには記載されている。当然のことながら《パルシファル》の残りの公演は完売。後の演目に交換も日本からではなかなか難しいだろう。私はたまたま6月からの《ボリス・ゴドゥノフ》にも行く予定をしていたので、代えてもらうことは可能だが料金が合っていない。メールしてみても同じ回答しか戻ってこないので、ボックスオフィスまで出向いて返金してもらうことにしようと思う。
幸い私は5/10と13のきっぷを持っていたので、13日はかろうじて観られることと思う。

*1:ずっと運休しているわけではない

Lohengrin 東京春祭 08042018

上野春祭の演奏会形式ワーグナーシリーズはいい。と言いつつここ数年は足が遠のいていた。年度初めに職場で騒動が多かったからだ。今年は余裕を持って行くことができた。ワーグナーは演奏会形式でじゅうぶんであると私は考える。予算がないとかで中途半端な舞台をつくるくらいならない方がいい。ただしそれには指揮者なり、演奏者なりがその作品のビジョンを持ち、聴衆に伝える技量あるという条件がつく。
少なくとも今回の公演では、タイトルロールであるKFVがそのビジョンを持ち、出演者をひっぱって「画」を描き切っていたと思う。

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