リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Der fliegende Hollaender @Bayerische staatsoper 17012014

今シーズンのプログラムが発表された時、どの新聞だったか忘れたが「Evgeny Nikitinは、バイロイトで歌うことは許されなかったが、イーザルではオランダ人を歌えるのだ。」と、書かれていた。私はこの公演には必ず赴かなくてはならないと思った。誰に強制されてもいないけど。

Conductor: Gabriel Feltz
Producer: Peter Konwitschny

Daland: Kwangchul Youn
Senta: Anja Kampe
Erik: Michael Koenig
Mary: Okka von der Damerau
Der Steuermann: Kevin Conners
Der Hollaender: Evgeny Nikitin

* 休憩なし一幕構成。救済の動機なし

『さまよえるオランダ人』by リヒャルト・ワーグナー 原作はハインリヒ・ハイネの小説『フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想』他

あらすじ:18世紀、ノルウェーの海岸。「さまよえるオランダ人」の伝説にとりつかれているゼンタのもとに、まさにその「オランダ人」を伴って、父ダーラントが帰ってくる。オランダ人は永遠に七つの海をさまよい続ける呪いを解くためには、自分に誠の愛を捧げてくれる妻をみつけなければならない。救いの乙女は自分だと確信するゼンタ。ふたりは結婚の約束をする。オランダ人伝説は物語にすぎないという、ゼンタの恋人エリックは、彼女の婚約をなじる。ふたりは愛し合っていたというやりとりをきいたオランダ人は、再び永遠につづく航海に出ようとする。ゼンタは彼への死に至るまでの貞節を誓い、海に身を投げる。その犠牲をもってオランダ人の呪いは解けたのだった。

今回は聴いたことない指揮者だったけど、若い人だったので必要以上に間延びしたり「個性出そう」ってしてないところがよかった。音のかたまりをばさってすくいあげるような指揮っぷりで、豪快でもあった。
ミュンヘンの『さまよえるオランダ人』は、Peter Konwitschny の演出で、以前staatsoper TVでも見ている。2幕のスポーツジム演出が*1不評だった。オランダ人が入ってくるところがものすごい違和感で、逆におもしろいけどね。なにしろエリックがバスローブ姿で出てくるのが…。Klaus Florian Vogt のバスローブ姿はそれなりに見栄えがよくて我慢できたが、今度のはKoenig だったから、むさくるしすぎてカンベンしてほしかった。特徴はオランダ人船長ほか幽霊船員たちは古色蒼然とした衣装で(ゼンタに着せるウェディングドレスも古い時代のもの)、現代のスポーツジムのゼンタたちとの対比がくっきり。時代がこれだけ違えば相互理解は到底難しかろうというところか…。
幽霊船とオランダ人船長は、レンブラントの絵のようだった。完全に衣装マジックで、ものすごくステキに見える。
救いのヒントを残してくれた天使のメタファーみたいなきれいな女性が出てくるのも、余分な気がするけどまあいいか。オランダ人もゼンタも、要所要所で自分を嘲笑したり、突き放してみたりするところがあって、それもちょっと気になった。特に最後なんか完全に*2ゼンタの頭がおかしいみたいに見える。(終わり方自体もそうとうおかしい)
1幕最後の「さ〜、お家に帰るよ〜。」のとこで、幽霊船側もダーラント側もみんな浮かれてると、オランダ人もはしっこでぎこちなく踊ってるのがおもしろかった。あそこだけリピートして見たかった。
舵取りさんはけっこう重めで、しばらく軽いかんじの人できいていたのでちょっと違和感があった。
Evgeny Nikitinは、しばらくコンサート形式のオランダ人ばかり聴いていたので、ステージ付きで見ると思うとドキドキ。演技達者というわけではないが、声質外見ひっくるめてはまり役だと思うし、やっぱりぴったりだと思った。声はまっすぐで、透明感がある。若いヒロイックな声なのだ。事前に少々具合が悪いというエクスキューズがあり、そのせいか圧倒されるようなことはなかったが、すごくきれいに響く音があってそこはうっとりする。さすがに歌い慣れてて、もう音が微妙にはずれるようなところはなかった。
重唱があるKwangchul Youn と、Anja Kampe が上手いから、そういうとこはひきずられていっそう上手く聞こえた。Anja Kampe はこのゼンタを今シーズンの最初のランはもちろん初演から歌ってるため、演技とのタイミングを完璧にのみこんでて余裕がある。最後までパワー衰えない。この演出がお好きなんだそうだ。
ダーラントのKwangchul Younも素晴らしいとーちゃんぶりだった。
さておわりの10分程。ゼンタとエリックとのごちゃごちゃ三重唱に入ったところで、2列後ろで騒ぎが起こった。
どうもひとりじいさまが気分が悪くなって倒れかけたらしい。パルケットの前列6列めまでの観客はみんなそっちに注意がいってしまった。すぐに連れ出されて、たぶん大事なかったと思うけど、舞台上ではクライマックスだったんだから気の毒千万。
そして、幕切れ。 Peter Konwitschny にしてはまともかと思ってたのに、また楽譜に介入するという私が大嫌いなことをしてくれた。ゼンタがドラム缶に入った火薬に着火、爆発…そのあとオケが止まって、真っ暗になり、ラジオみたいな録音音源で最後の数小節が終わる。救済のテーマはなし。泣けてきた。そう、ストリーミングでは*3気づかなかったのだ。こっちのパソコンがおかしいか、録音状態が悪いと思ったから。
で、そのかちゃかちゃ録音が止まると、全員集合の舞台が明るくなる。これはどういう意味なんだろう?全体が劇中劇なのかな。
そういう不満は今回の場合、些細なことだ。私はミュンヘンでNikitinのオランダ人が見られて嬉しかった。時間があれば、この後の公演全部見たかった。
『オランダ人』ばかり聴いてて飽きたでしょと言われることもあるけど、機会があればまたいつでも聴きたい。

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*1:でも現地では大受け

*2:私は決してゼンタがおかしいとは思っていない

*3:初演時の評も見ていないし