読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

親衛隊士の日 -Vladimir Sorokin

親衛隊士の日

 

 

Vladimir Sorokin の『親衛隊士の日』、本書は2013年の9月に発売されていたのだが、今頃になって読んでみた。その前に邦訳が出版された*1『青い脂』を読むのに苦労したせいである。
ところが、この『親衛隊士の日』は、今までの Sorokin 作品とはうって変わって、ちゃんと物語の体裁をとっているうえに、文章も読みやすい。その事実にまずびっくりしてしまった。

 物語は2028年のなぜか帝政に戻っているロシアが舞台。いわゆるディストピアなのだ。皇帝の親衛隊士のひとり、アンドレイの日々の仕事が活写されている。タイトルそのままの「ある親衛隊士の一日」なのだ。はっきりとした結末や、これまでの経緯のような描写はない。未来の帝政ロシアにおいて、イワン雷帝に忠実なエリート階級の*2親衛隊(Опричники)そのままに、反逆者の粛清をし、皇帝や皇帝妃の命に応え、親衛隊内の結束の確認儀式もしなくちゃならず、主人公はけっこう忙しい。

その中で登場人物たちの衣装やルックス、麻薬のように使用される金色のチョウザメのアクアリウムの描写は美しい。親衛隊の儀式として行われる同性愛的行状の描写は、ゲイプロパガンダ禁止法が制定されたばかりのロシアでどうなの?とか言われていたようだが、この場合はなんというか男同士の団結力を強めるためというかんじで、恋愛とかそういうのとは無関係な気がする。ガチで「男らしく」そのような行為に及んでいる。
古典文学のパロディのような詩がはさみこまれ、随所にロシアの芸術モチーフがちりばめられている。かなり親切に注釈があるのだが、ロシアの文芸、文化についての素養がまったくないとその点はあまりおもしろくないかもしれない。
しかしこの物語を貫く高貴な野蛮さは、魅力的だ。

この本の翻訳をされた松本隆志氏は若い方で*3、『青い脂』は共訳となっていたが、こちらは単独翻訳だ。古典的な雰囲気のすることば選びと文章のセンスが素晴らしいと思う。『親衛隊士の日』には続編があるそうだ。どんどん訳していただけるといいな。

さて、音楽日記としてはこちらもご紹介しておかねば。
これまためったに上演などされないが、チャイコフスキー作曲の『親衛隊』というオペラがある。

 

Galina Vishnevskaya が歌うヒロイン、ナターシャのアリア


Galina Vishnevskaya~Natasha's Arioso Oprichnik~Tchaikovsky - YouTube

 

序曲


Tchaikovsky "The Oprichnik" - Overture, Arioso and Dance - YouTube

 

*1:読めばすぐわかっていただけると思うが、もう後書きの翻訳者の苦労話が涙なくしては読めないくらい、ものすごい難解な作品なのだ。著者が存命でなければ、さっぱりわからなかったのではないか

*2:ボリス・ゴドゥノフもイワン雷帝の親衛隊だった

*3:出版時にはまだ20代でありましょう