リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Fidelio at Opera di Firenze 03052015

前回はコンサート形式になってしまったオペラ、5/1にフィレンツェオペラのサイトを確認した時点では「今後の公演は演奏会形式になりました。払い戻しご希望の方はチケット窓口までおたずねください」と記載されていた。そのため、この日も当然そうなると思いこんでいた。どうせまた席は空いているだろうし、3列目はしっこの席を最前列に*1替えてもらおうとカッセに寄ってみた。
するとやけにチケットを求める人が多い。スタッフに「席替えてほしいんですけど。同じカテゴリの最前列で」。まだショーペロ続行と信じているから、こんな申し出は当然よね、と強気でいると「え~と、通常は席の交換はできないんです。それに今日は…」とスタッフは口ごもる。「最前列解放してるでしょ?」「そうなんですけど、少しお待ちを」と言うから待っていたのだけど、そのあと彼は知り合いと話をしていたりして作業してくれない。開演時間もおしているので、もういいや、と客席に。

 す・る・と。オケがピットに入っている!この日は通常の舞台公演が行われることになったのだ。わ~、嬉しい。それで妙にカッセが混んでたんだなとわかった。席は交換してもらえなかったけど、結局中央に近い席が空いていたので、そこに(勝手に)移動させてもらった。*2

このプロダクションは2006年のヴァレンシアがプレミエ。フィレンツェ出身のPier’Alli の演出なので、ここで観るのもまた意義があるような(ないような)。
このところあまり見かけないオーセンティックで大掛かりな装置*3と衣装。さらに奥行きをもたせるために紗幕へのビデオ投影も使用される。ビデオ投影併用は2幕からで、フロレスタンが幽閉されている地下牢へ降りて行く様と、終幕にそこから上がってくる様子がかなりの迫力で感じられる。
装置は大きいけれど、舞台の中央部分にはほぼ何もなく、ドン・ピツァロが登場する行進曲の場面など、カラーガードがちゃんとついていてとんでもなくかっこいいのである。これだけでも一見の価値があり、舞台付きで上演が観られてほんとうによかった(感涙)。
広い歩幅で舞台を闊歩するピツァロのすてきなこと !
囚人たちにもまとまりのある振付がされていて、動きに無理がないため合唱もとてもきれいなものだった。
今回の主要ソリストはいずれもドイツの歌劇場やドイツオペラで活躍している人たちで、歌唱力も十分。指揮者の余裕のある、優雅、正統なつくりの音楽に丁寧によりそったパフォーマンスだった。
パワフルだったのはマルチェリーナ役の Anna Virovlansky とフロレスタンの Burkhard Fritz のふたり。もちろんレオノーレの Stundyte も好演だったが、マルチェリーナの元気いっぱいでさわやかな歌声は*4とても魅力的だった。Fritz は正統派ヘルデンテノール声だし、プロジェクションがすごくいい。音楽表現が非常に知的で、ついでに恰幅がいいので長期間幽閉されていたような悲劇性が感じられないところは*5あるが、歌唱そのものは聞き応えあるし、前回も書いたようにさらにグレードアップしていた。
ヤキーノやロッコはそれなりに。バランスを損なうようなことはまったくなかった。
声量のバランス的には実はピツァロ役がちょっと小ぶり。無理に声をはるとそれがわかるし、ブレスが目立つことになるのでこんなものかな。いつものように、どの音符もないがしろにせず丁寧に歌っていたし、この衣装着てるのが見たかったからいいの。かっこよかったぜ。
また、「レオノーレ序曲第3番」が場面転換のための間奏曲の役割がはっきりわかる舞台というのは、近頃は珍しいのではないかと思う。昔と違ってこの曲自体が入る上演版があまりないのでは? 
この曲を入れるということは、終幕の迫力もそれを上回る表現力がなくてはならない。
「レオノーレ序曲第3番」も、終幕の合唱も今回はそれぞれ素晴らしい演奏だった。
《フィデリオ》の作品としての素晴らしさをMaestro は教えてくれた。*6 
終わったあと、隣の席のおばあさまは涙を浮かべて「ねえ、なんて素晴らしい演奏だったことでしょうね」と感極まった様子でおっしゃった。
わたくしも心から同感。

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Don Fernando: Eike Wilm Schulte
Don Pizarro: Evgeny Nikitin
Florestan: Burkhard Fritz
Leonore: Ausrine Stundyte
Rocco: Manfred Hemm
Marzelline: Anna Virovlansky
Jaquino: Karl Michael Ebner
First prisoner: Pietro Picone
Second prisoner: Italo Proferisce

Conductor: Zubin Mehta
Orchestra and Choir of the Maggio Musicale Fiorentino

Maggio Danza

Direction, scenes, costumes, lights: Pier’Alli
Costumes cooperation: Elena Puliti

 

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ここの楽屋口は、劇場を出てから入り口向かって左にある扉を開け、裏手に回るとある。
その扉がなんか「立入り禁止」的な雰囲気なのだが、ふつうに開く。
今度はわかった!
出てきた favourite が私を見つけて、すたすたと近寄ってきたのはいいけど、不機嫌そう。なんでこの前はここに来なかったのかと怒られて(怖いよ~((((;゚Д゚)))) いると、 Fritz さまの救いの声が…「やあ、 Burkhard だよ。よろしくね」注意をそらしてくださって、なんて優しい人でしょう。
若手のキャストたちは、以前共演したりなにかつながりがあったりして、とても仲良く仕事をしていたようで、よかったよかった(と、私が言うことでもないが)。
favourite は今勉強中のヴォーカルスコアを手にしていた。ほんとにまじめな努力家だ。「いつもいつも、私はあなたの成功を願っています」別れ際にそう言うと、「ありがとう」と久しぶりの可愛い笑顔を見せてくれた。

*1:チケットカテゴリが同じ

*2:日本のホールだと、会場スタッフがすっとんで来て注意される。いろいろうるさすぎるよね

*3:こりゃもうショーペロやられたら手も足もでない

*4:オフのご本人もとっても可愛くて元気なひと

*5:妙に楽しそうに見えてしまうのだ

*6:知らんかったのか!とか言わないで