リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

パイジエッロの《セビリアの理髪師》

気がついたら8月も終わりになってしまった。特別なことは何もしていない。私の勝負はいつも通常の音楽シーズンが始まってからなのだ。各地の音楽祭の中継放送などは楽しく聴いていた。
ある日、そういうものとは関係なく、今年の2月にTheater an der Wienで上演されたパイジェッロの《セビリアの理髪師》の放送があった。*1
指揮はRene Jacobs で演奏は Freiburger Barockorchester だ。
この作品はパイジエッロがエカチェリーナ2世の宮廷に仕えていた時代に作られ、1782年サンクトペテルブルク初演、ヨーロッパ再演はナポリで1787年。Theatre an der Wien のプログラムには1782/1787と記載されている。

 《セビリアの理髪師》といえば、まずロッシーニの作品だろう。同じボーマルシェの戯曲に基づいたパイジエッロのものから約30年後に発表されたが、空前の大ヒットになったため、以後パイジエッロの方はほとんど上演されなくなってしまった。確かに音楽としてはロッシーニの方がおもしろいし、パイジエッロ版は他の多くの埋もれてしまったバロックや古典派のオペラと同じようなものかと思われた。
しかし、Jacobs のこの演奏は違った。モーツァルトがこの4年後に発表したオペラ《フィガロの結婚》*2とのつながりがはっきりわかるものだったのだ。
ご存知のように、《フィガロの結婚》は《セビリアの理髪師》の後日譚だ。ロッシーニ版だと、そういえばそうだったね…程度なのだが。
パイジェッロ版には、その後のモーツァルト作品《魔笛》《フィガロの結婚》《ドン・ジョバンニ》にある音楽の断片が聴こえる。特にアルマヴィーヴァ伯爵のセレナーデにはケルビーノの"Voi che sapete"があらわれているため、《フィガロの結婚》において伯爵夫人ロジーナがケルビーノに若い頃の伯爵を見、その時の愛情を思い出しているのではないかと考えさせられる。それらのモチーフが Jacobs の演奏ではひときわはっきり浮かび上がるうえ、演奏の最後には《フィガロの結婚》の序曲3小節を入れている。
このままお話は続きますよ、というかんじでおもしろい。Jacobs はモーツァルトのダ・ポンテ三部作も、もちろんバロックオケで録音しているし映像もある。このまま続編として楽しんでしまえる。
パイジェッロの方は全曲私のyoutubeチャンネルにアップロードした。

youtu.be

続きの《フィガロの結婚》はこちらで

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*1:例によってラジオオルフェイ

*2:モーツァルトのこの作品はパイジェッロ版へのオマージュなのではないか