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リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

The fiery Angel at Bayerische Staatsoper 16072016

バイエルン国立歌劇場の《炎の天使》は、昨年11月にプレミエ。もちろんミュンヘンでは初めて上演される作品だった。*1
その一年前にfavouriteから出演すると聞かされてから、楽しみに待っていたがプレミエの時点では現地に観に行くことはできなかった。半年以上経て、オペラフェスティバルのこの公演を見られる算段がついたことは、とても嬉しかった。

あらすじ:16世紀のライン地方、騎士ルプレヒトはとある宿屋で、そこの女将が「悪魔憑き」だと語る女性レナータに出会う。レナータはルプレヒトに自分の生い立ちとここにいる理由を語る。彼女は幼い頃に会っていた炎の天使マディエルが人間の姿になったと信じるハインリヒ伯爵の恋人になるも捨てられてしまった。その後も彼を探し、追いかけていたのだ。レナータに惚れ込んだルプレヒトは、彼女とハインリヒ伯爵を探す旅に出る。その後ケルンでハインリヒ伯爵を見つけるが、拒絶されてしまう。伯爵と決闘をさせられたルプレヒトはそれによって怪我を負う。レナータはルプレヒトの求婚も退け、自殺を試みた後に修道院に入ってしまう。彼女が入って来てから起こる異変を不審に思った修道院長は異端審問官を呼び寄せる。審問官から魔女認定をされたレナータは処刑される。

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物語の舞台となる中世におけるオカルティズムと、作曲された年代に台頭していたスピリチュアリズム*2が交錯し、この作品を特異なものにしている。

Musikalische Leitung: Vladimir Jurowski
Direction: Barrie Kosky

Renata: Svetlana Sozdateleva
Ruprecht: Evgeny Nikitin
Inquisitor: Goran Jurić
Mephistopheles: Kevin Conners
Agrippa: Vladimir Galouzine
Hotel Manager: Heike Grötzinger
Fortune Teller: Elena Manistina
Abess: Okka Von Der Damerau

 レナータ役、Svetlana Sozdatelevaは当初このプロダクションでキャスティングされていなかった。しかしこれが同演目4つ目のプロダクションだと語る彼女のパフォーマンスはさすがに素晴らしいものだった。
ほぼ出ずっぱり歌いっぱなしのうえに、歌唱は困難をきわめる。さらに演技。Sozdatelevaは、Kosky演出にKOBでも出ているので、これは大きな強みになったと思う。指揮者と演出家ともに彼女に信頼をよせているのが、よくわかった。
ものすごいパワーと牽引力があり、ドライな表現はこの曲にぴったりだと思った。
もうひとりの主役、ルプレヒトを歌った私のfavouriteは、これ以上の適役ってないんじゃないかとうれしくなった。2年前の《囚われ人》のみごとさを理解してくれる人は少なかったけど、この役については多くの人が賛同してくれた。
声域と声質、役の性格などが彼にぴったりのうえ、無調あるいは独特の調性感のある曲こそ器用に歌いこなすため、彼のために作られた曲のようにすら思われるのだ。
オペラフェスでは、《ローエングリン》のテルラムント伯*3でも出演していたが、こちらの評価はいまひとつだった。
この他の歌手陣も万全で、アグリッパ博士のVladimir Galouzineを聴けたのも幸せ。
評判のBarrie Koskyの演出は、現代のホテルのスイートルームを舞台にしたもの。
室内装飾を様々に変化させて、場面転換を図る。
レナータとルプレヒトの旅そのものは幻想であるから、部屋から出ることはない。また、ハインリヒ伯爵の存在も、レナータ自身が幻想の投影となるため、物語を頭にいれておき、さらにこの演出の意図するところを理解していないと途中で混乱することになるかも。
メフィストフェレスのからかいや場面転換のところでは、ダンサー大活躍。これはおもしろかった。ドイツなんだから、まあこんなもんよね。
修道院の場面は、磔刑のキリストの仮面をつけた白装束の修道女たちがレナータとともに歌う。審問官の宣告から終幕に向けて、おどろおどろしい場面なのだが、どうもそういう雰囲気がしなかった。期待するほどの怖さがないというか。
実はこれは、演奏全体から感じることと同じだった。
私の席は2階のバルコン1列目で、指揮者の姿がよく見えた。*4
ビシっという、音が聞こえてきそうなほどオケを完璧にコントロールして、一カ所の乱れもない。
冒頭から終幕まで一気に駆け抜ける爽快感が勝っていた。プロコフィエフの音符が持つ、ドライでアヴァンギャルドな性質は充分に再現されていたのだが、スタイリッシュすぎた。もちろんこれは私にとっては大いに満足するところ。
もとのホテルの一室に、レナータとルプレヒトが呆然と佇んで、この舞台は終わる。
すべてレナータとまきこまれたルプレヒトの幻想だというオチ。
これは観客も同じような気分にさせる。一時も舞台から目を離すことができず、耳もひきつけられっぱなしのため、終わった時には見ている方も呆然としてしまうのだ。
このプロダクションはもう、定番化して《椿姫》並に上演してほしいものだが、歌える歌手がそれほどいるとも考えられないのがネックだ。
上演される時には全部見たいな。というわけで、来年2月、今度はパパユロフスキの指揮の公演もぜひ行きたいと画策しているところだ。

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今回は少し寒かったので、単衣の上にレースの羽織を着て劇場に出かけた。
相変わらずドイツおばさまからの評判は良く「きれいなドレスね~」と何人かから声をかけていただいた。
ステージドアではユロ兄が、すごくうれしそうに見てくれたけど「急いでるんだよ~」と言ってたので、お声をかけるのはやめておいた。(そのわりにはサインをねだるファンにつかまってはおしゃべり…していたから私もサインいただけばよかった)
帰り道で日本人のご夫婦から「こんにちは!*5すてきですね」「可愛い。お人形みたい*6」と。このように声をかけられたのは初めてだったのでびっくりした。
外国では日本人にも威力を発揮するということで。しかし、目立ちすぎるということがマイナスにもなるとわかったので、しばらく着物で劇場は封印することになると思う。

 

*1:近年ドイツと近辺の劇場で上演されることはあったが、そもそもめったに上演されるような作品ではない

*2:作品の中に、当時流行していた心霊術も出て来る

*3:ほんとにこの頃これをよく歌ってる

*4:まっすぐに腕を伸ばして指示する姿がかっこよくてホレボレしていたのだが

*5:夜だったけど、ほんとにこう声をかけられた

*6:暗いとはっきりわかりませんからね