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リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Prince Igor at Dutch National Opera 26022017

ミュンヘンからアムステルダムに移動。マチネの開演は午後2時。時間通りの運航だとして、スキポールに着くのが午後1時20分。30分程でミュージックシアターまでは行けるが歩く時間とか電車の乗換えがあるから、まあ遅刻だろうなとは思っていた。

市内交通のICカードを買うのに手間取ったのと、劇場のすぐ前のメトロ駅が工事中で閉鎖されていたため*1 、やっぱり20分ほどの遅刻になってしまった。
入口のドアには鍵がかかっていたが、係の女性が開けてくれた。その後彼女がつききりでクロークに荷物を預け、窓越しに観ることができる遅刻部屋に連れていってくれた。
「遅れた方は休憩時間までここで観るの。休憩後に自分の席に戻ってくださいね」
プロローグの部分だけは見られず、私は一面のケシ畑の場面からの鑑賞となった。
この《イーゴリ公》のプロダクションは、METとのコープロで初演の時にLive in HD、その後WOWOWでも放送があったのでご覧になった方は多いと思う。
私も映画館での配信とテレビ放映を見ている。

Prince Igor by Alexander Borodin

Musical director : Stanislav Kochanovsky
Stage director and sets: Dmitri Tcherniakov

Rotterdam Philharmonic Orchestra
Chorus of Dutch National Opera

Yaroslavna: Oksana Dyka
Konchakovna: Agunda Kulaeva
Vladimir Igorevich: Pavel Černoch
Prince Igor Svyatoslavich: Ildar Abdrazakov
Prince Galitsky/ Khan Konchak: Dmitri Ulyanov
Ovlur: Vasily Efimov
Skula: Vladimir Ognovenko
Yerosha: Andrei Popov
Jaroslavna's nurse: Marieke Reuten

 このプロダクションの特徴は、イーゴリ公の遠征と帰還が外枠としてしてあり、ポロヴェツ陣営での様子は、負傷したイーゴリ公の幻想であるということだ。プロローグですでにイーゴリ公の軍は息子のウラヂーミルも含め壊滅している。幕の編成はマリインスキ―版が基になっている。プチーヴリとポロヴェツの場面を組み替えたり省略していたりするため音楽的には一貫性に欠けるものの、物語としてはかなりわかりやすいのではないかと思う。
そしてこれは重要なことだが、最終場面は映像で見た時よりも、やはり実際の舞台を観るほうがはるかに説得力があり、胸に迫るのだ。
ケシ畑の幻想はたしかに美しい。プチーヴリの館の奥行やシンメトリーな造形も。
しかしプロローグの映像とリンクする灰色の荒廃したイーゴリ公の領地こそ、見せ場なのであろうと思う。
第一次大戦時に置き換えられていることが効果を発揮しているのもこの場面だ。
ヨーロッパの人々というのは、どうも第一次大戦が舞台の作品が大好きらしいので、大昔のルーシの物語を理解されやすいというのも利点ではないか。
幕間に会っておしゃべりをしていたオランダ人のメル友は「この舞台は今までのミュージックシアターのオペラの中でベスト」と言っていた。

演奏もまた素晴らしい出来だった。主要キャストはキエフ出身のDyka、マリインスキ―のトップ歌手たち、モスクワの精鋭と豪華きわまりないものだった。
I.Abdrazakovの歌いこみはかなりのもので、METの時よりも一段と深みのある歌唱になっていたと思う。Dykaは美しい容姿もあいまって、悲劇的な要素を高める役もかっていた。
なにより素晴らしかったのは、傍若無人なガリツキー公と寛大なコンチャク汗の二役を見事に歌ったUlyanov。たしか発表当初は彼がキャスティングされていなかったはずだが、きっぷを買う前に見てみたら彼になっていたので、大喜びしてしまった。
MET版ではガリツキーをMikhail Petrenkoコンチャク汗をKocanが歌っていて、それぞれ好演ではあった。
しかしUlyanovのド迫力と、はまりっぷりを見ると、このふたりはなんと小物な…とか思ってしまうのだ。ウリ様(ついこう呼んでしまうので)も、けして大ベテランという年齢ではないのだが。ここに来た目当てのひとりはまったく期待どおりの働きをしてくれた。
そしてもうひとりのお目当ては、指揮者Stanislav Kochanovsky 目下ワタクシのイチオシ。ものすごい勢いで世界中の歌劇場やコンサートホールにデビューしている*2
以前も書いたことがあるが、彼はソリストや作品をとても大切にする。演奏者に敬意を払い、魅力を最大限に引き出そうとする。ネームバリューもないし、これといった強烈な個性はないが、丁寧かつ洗練された音楽作りを私は高く評価している。
ロシアオペラまるごと彼の指揮で聴いてみたいという夢は、大満足な結果で実現した。もちろんロシアものでは、かなり鍛えられているロッテルダムフィルの功績も大きい。

f:id:Lyudmila:20170307222629j:plain カテコでのコチャ

DNOのダンサーと合唱は*3いわずものがなの高い完成度であり、公演は大成功だったといえるだろう。

f:id:Lyudmila:20170307222710j:plain 「やったー!」と嬉しそうな面々。

カーテンコールでは、瓦礫を踏まないようにか、Abdrazakovが赤いプラスチックのスリッパをはいて出てきて、それがずいぶんウケていた。完全に幕が下りた後に舞台から雄叫びが聞こえてきた。この日が最終公演だったこともあり、満足のいく演奏を無事にやり終えた達成感をその声からうかがうことができた。

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開演の直前に、コチャに「今から見に行くから!」と応援メッセージを送っておき、終演後に自分のFBのページにカテコ写真を掲載したら、すぐにタグ付けリクエストがきた。嬉しそうなカテコ写真だったから、皆さんにみていただくのはかまわないんですが、そんなリクエストがあることも知らなかった…。

 

 

*1:出たら風景がちがうのでびっくりして、もう一度構内に戻り駅名を確認したりしていたのだ。google mapで自分の位置を確認しないとどこにいるのかもわからなかった

*2:N響との共演もちゃーんと「実績」としてプロフィールに記載してます

*3:知人のブルガリア人歌手がワーグナーとロシアものの合唱には必ず参加しているのだが、彼も満足そうだった