リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Parsifal at the MET 13022018

2回目の《パルシファル》鑑賞になるので、前夜外がうるさくてよく眠れなかったこともあり午後まで部屋で眠っていた*1。せっかく持ってきたし、比較的気温も上がっていたので着物を着て出かけた。

この日の席はオーケストラの2列目。例によって下手より上手よりの対称になる席を購入し、1幕と2、3幕で交代。2幕前に友人と席を代わって座ったらお隣のじーちゃんが「ここ、別の女性が座っていたよ」とおっしゃった。「彼女は友人で、私達、席を交代したんです(にこっ)おじゃまでしたかしら」「そうなんだね、いい方法だ。私は歓迎だよ」

Amfortas: Peter Mattei
Gurnemanz: René Pape
Parsifal: Klaus Florian Vogt
Klingsor: Evgeny Nikitin
Kundry: Evelyn Herlitzius

Conductor: Yannick Nézet-Séguin

 プレミエの映像を見た時から私はこの舞台演出にT.S.Eliotの『荒地』そのものだな、と思っていた。
「四月は最も残酷な月・・・」という書き出しで有名なこの詩、聖杯探求や漁夫王の荒廃した国、キリスト教から仏教まで共通する巡礼の道、最後の融和と平安というモチーフは《パルシファル》と共通している。実際詩のなかには楽劇*2の《パルシファル》や《リング》からの引用もある。舞台の何もない乾ききった荒地、どこの誰ともわからない女性たちとさまよう男性たち。
ポストアポカリプスな演出であるとは言われているし、演出家もそのように解説していたようだったが、私は『荒地』との一致を探して見た方がしっくりくると思う。
自分がただ聖杯探求の物語に執着しているせいだとはわかっているが。
この日のオケは前回より、やや精彩が増していた。金管も冴えていたし、ある程度の重厚さが聖杯の音楽のところにも現れていた。
それにしても、軽い。そこが悪いということではない。パルシファルとクンドリの声質がやや軽く明るいせいもあるだろうが、そこは今回のキャスティングから得られる美点でもあると思う。みごとなグルネマンツを演じ歌っているPapeも、どちらかといえば声じたいは明るくクリアの輝きのある音質なのだし。そこになんとも言えない円熟の滋味が感じられて素晴らしい。
調子のいい悪いがほとんどないのか、安定の歌唱に終始しているのはMattei アンフォルタスになりきりでほんとに腹が痛くて具合悪いんじゃないのかと。彼の声も透明で実に美しい。
そう、軽い、というのはこの歌手陣の声質のそろいっぷりにもあるのかもしれない。
そしてやはりVogtパルシファルの2幕からの声の変わり方には驚く。覚醒!ってかんじなのだ。Kaufmanがわりと最初から賢げだったのと比べてVogtはピュアさが際立つからかな*3
クンドリはちょっぴり抑え気味だったか。Herlitziusは可愛らしくてあまりワイルドではない。声も上品で少々軽めによっているように感じた。
Zhenyaは変わらず。全部で20分ほどの出演なのだから、そのときそのときの全力を出しきって歌っていただかないと困る。実際そうしていたというのは後で思い知ることとなる。1600ガロンの血の池、口にしてもいい原料でつくられているようだが、今回は口にしたりばしゃばしゃ浴びるようなことはしていなかった。いくら飲んでも大丈夫といっても気分のいいものではないだろうし。
《パルシファル》は観客にとって1幕が山場。ここが過ぎると残りはあっと言う間に終わってしまうように感じる。私もたびたび「2幕にしか用がないから」と言ったりしているが、各幕にお気に入りの場面はあるのだからなかなか寝てたり帰ったりはもったいなくてできない。(←あたりまえか)
新演出だと演出を見るのにも熱中してしまうが、今回はそれは少なく、歌唱にも集中して聴けてよかったと思う。
各幕後のフライング気味の拍手はやはり健在であり、なくなることはないのだろうな。やれやれ。

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私はもちろん上演中はスマホのスイッチは切っている。終演後電源を入れ、現れたメッセージを見て手が震えた。「血圧が上がってひどく気分が悪い…」というZhenyaからのものだった。時間は出番のすぐ後。幕間に見ていたら3幕は落ち着いて鑑賞できなかっただろう。電源入れなくてよかった。私は気をつけてね、と言うことぐらいしかできないけど、いつも元気で舞台に立てるようにお祈りしてるからね。

出待ちらしいことをまたひととおり終えて、私達も帰り道に。結局日本人はフォークトさんファンが集結みたいになったので、四月にまた東京で会いましょうねと言いあってお別れとなった。

 

*1:昼間は人の往来があるので夜中に工事をしていたようだ

*2:実際は違う表題がついているが、ここでは便宜上こうよんでおく

*3:バカっぽいとは言わないでおきましょう