リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Toneelgroepamsterdam: Roman Tragedies at Théâtre national de Chaillot 30062018

Performed by Toneelgroepamsterdam

Director:  Ivo van Hove
from william shakespeare's  Coriolanus, Julius Caesar,  and Antony and Cleopatra

オペラの他に何か観るものはないかな~と探していた時に、シャイヨー劇場のプログラムにIvo van Hoveの代表作《ローマ悲劇集》を見つけた。大喜びできっぷを予約。この時きれいに後部座席だけ残っていることになんの疑問も感じなかったが、後日劇場からきたメールを読んで仰天した。いわく「予約した席番は無効です。役者も観客に混ざります。席は自由です、観劇中飲食も自由です。劇場にいらした時にスタッフの指示に従ってください」どういう状態なのか見当がつかない。まあ行くしかないよな。自由席なら早く行けば好きなところに座れるわけだし、飲み物とお菓子を持っていくことにした。

 

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こんな舞台。まだ普通の状態

上演時間は5時間30分。休憩時間はなし…というのは上演中にちょくちょく3分から10分の「セットチェンジ」の時間があり、その間に席替え、トイレなどに行ける。セットチェンジといってもステージ手前のテーブルやソファを少し配置換えするくらいでたいしたことはしない。主に観客が自由に動ける時間と考えるといいだろう。舞台の上手側にはビュッフェ、下手側にはなぜかメイクコーナーが設えられていて役者も観客も利用できる。舞台後方のセットであるソファなどにも観客は座っていい。客席に役者がいたりするのでメールの文面どおり観客も役者も劇場の中で混ざっているのだ。観客はそのままエキストラみたい。あまりの自由度に最初のうちはおそれをなしていた私だが、途中で舞台ビュッフェに並んでみた。後ろからさっきまでそこでお芝居していた役者がふつうに水のペットボトルを置くために手をのばしてきたり、なんだか不思議な感覚だった。

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自由すぎるステージ上


きちんと前から舞台を観たい場合はセットチェンジ時間がすぎてお芝居再開の時に「客席」に戻ればよい。

オペラの演出でもそうなのだが、Ivo van Hoveの演出する舞台のセットは映像が主たるものだ。あとは家具。衣装は現代のビジネススーツがほとんどだ。家の居間にいる設定のシーンではラフな格好で女性もぺらぺらのスリップドレスなどだった。
全体が政治と民衆の対立のようで、なにか事件が起きると舞台はただちにテレビの「ニュース速報」スタジオになる。現代の政治家のように話すコリオレイナス、ブルータス、シーザー、アントニー。しっくりくるようなこないような。
効果音は生演奏で、ローマ史劇らしいのは爆音の雷を模した演奏ぐらい。ビデオが投影されるスクリーン下部にはあれこれ字幕が流れる。

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スクリーンの赤い文字がアテンション。手前のボードはセットチェンジ残り時間


「コリオレイナスの死まであと5分」とかカウントダウンまで。*1
おもしろい人物造形だなと思ったのはクレオパトラで、ソファでだらだら寝転んだり所在なさげにじたばたしているところが現代ドラマを見ているようだった。
下手のモニターで再生されているのがエヴァンゲリオンだったりするので、日本人としてはそちらに目がいってしまう。どういう意図があったのかわからない。
科白はオランダ語、字幕はフランス語のため時々聞こえたり読める単語を拾っては脳内変換するのに忙しかった。途中であきらめたが。

役者の演技がとても自然で、実際インカムを着けていることで観客と見分けられるくらい。演出全体がリアルの世間のごちゃごちゃと融合するように出来ているようだった。
バスチーユオペラの《ボリス・ゴドゥノフ》も民衆(とその為政者であるツァーリ)にフォーカスされていた。こちらも為政者と民衆が中心だったので別のものを鑑賞した気がしなかった。

私は席替えをしなかったのだが、お隣席の人は何度かかわった。劇の半ばに隣にきたマダムは私をすぐに日本人とわかったようで「私はリセに通っている頃に初めてここで日本の伝統演劇を見たの。学校で見学希望を募った時にすぐ行きたい!って言ったのよ。すごく衣装が綺麗だった。なんていうのだったかしら」「歌舞伎ですか?ここでよく上演されてるようです」「いいえ、違うと思うの。仮面があったわ」「能ですね。歌舞伎よりもっと古い演劇です」「それだわ。もう一度なんていうジャンル?」「能です」「ありがとう。もう50年も前の話だけど」その後もこういう舞台はどう思うかとかシェイクスピアは好きかとかおしゃべりしていた。フランス語で話しかけられたが、私が困った顔をするとすぐに英語に切り替えてくださった。容赦無くフランス語やイタリア語(なぜか)話しかけてくるマダムが多い中、すごくありがたかった。

それにしてもこの日パリは最高気温30℃超えで、冷房があまり効かない(そもそもない?)劇場内は暑かった。もう少し涼しい状態だったら移動自由、劇場が全て舞台というこの演出をもっと楽しめたと思う。
またタイミングがあってこの舞台が体験できることがあるといいな。これは実際に参加してみないと絶対わからないお芝居だ。

 

Roman Tragedies 17|18 subtitled - Toneelgroep Amsterdam

このトレイラーだけじゃカオスな舞台の全容はとうていわからない。

*1:最初にコリオレイナスの死は〇分後、シーザーの死は〇分後…とか。それ読んだ時点で先の長さに気が遠くなる