リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

ピーチェル街歩き 1

荷物が届かないまま、到着翌日の朝。雪が降っていた。急ぎの用はなにもないので、朝食室に行きのんびり食事。朝8時にはまだ他のお客は誰もいなかった。
朝食後は何もすることがなく、ipadでガイドブックやgoogleマップをみて近くで行けそうなところがないか探していた。なにしろ雪用のブーツがないのだから雪道を歩くことは避けたい。お昼近くに雪が降りやんだので、すぐ近くにある劇場音楽博物館に出かけることにした。
ハイヒールのショートブーツで、滑らないように歩道をそろそろと歩く。
気温はかなり低く、-5℃くらいだったと思う。googleマップを見ながら歩いていると突然ipadの電源が落ちてしまった。寒さで異常にはやくバッテリーがなくなったのかと思ったが、本体が冷たくなりすぎたためだった。なるべくバッグの中や身体に近い場所に入れて、温度を保つ必要がある。ipadはホテルに戻って普通の気温になったらすぐに復旧した。カイロなどを貼っておくのは熱くなりすぎるのでダメだそうだ。人肌の近くかマフラーのようなもので包んでおくといいだろう。どうりで街なかで電話をしながらとか歩きスマホをしているような人を見ないわけだ。

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22・23日は休館ですよ、の貼り紙

 目当ての劇場音楽博物館は、ごく普通のビルの中にあるため見つけにくかった。しかもたどり着いたと思ったら「休館日」だった。2月23日は通称「男性の日」День защитника Родины(祖国防衛の日)だったのだ。*1《セミョーン・コトコ》っぽい。赤軍というと思いだすのがこれだ。

youtu.be

それで22、23日はお休みになる施設が多いことを知らなかった。歩いて5分ほどでホテルに戻れるので、それ以上どこかへ行くのはあきらめてルームサービスで遅めに昼食をとり、夕方からマリインスキ―旧劇場の方へ行った。また雪が降っていたためタクシーで出かけた。帰りは雪もやみ、バスで帰ってくることができた。
ホテルに戻ってからレセプションで私の荷物が届いたか尋ねたのだが、まだとのこと。昨夜チェックインした時に、翌日荷物が届くはずだから受け取ってね、と頼んだ同じスタッフ嬢だったので、事情はわかってくれていた。彼女が空港の係に電話をしてくれたのだが、オートアンサーだけになってしまっていた。いちおう24時間対応という番号だったのだが…。
さて翌日。天気は曇り時々小雪、といったものだった。今回行こうと考えていたクンストカメラ(ロシア科学アカデミーピョートル大帝記念人類学・民族学博物館 1714年創立)*2に出かけた。ホテルから200mほど歩くとバス停とメトロの駅がある。クンストカメラのすぐ裏手の停まるバスも通っているし、20分くらいで到着する。開館時間をねらってバスに乗った。小学生の一団と数組の家族連れがいっしょになった。エルミタージュ美術館を横目に(バスはほんとに横を通る)クンストカメラに一目散などという旅行者は少ないだろう。

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クンストカメラ入口横の表示

入館料は300ルーブル。バスが1回40ルーブルなのでなるべく100ルーブル札をとっておきたかった。しかしカッサのおばちゃんは1000ルーブル札を出すと難色を示し、100ルーブル3枚出して!と主張する。ないわけでなかったので100ルーブル紙幣で支払った。クレカ決裁もできるが、私は何度もこういうところでクレカが通らない経験をしているのであらかじめ現金で支払うようにしているのだ。なお、この規模の博物館では英語を話してくれるスタッフはいないと思っていたほうがいい。*3
クンストカメラはけして広くはない。保管庫にはもっと古かったり閲覧注意な展示用物品があるようだが、現在見学できる展示は地域別に分けられたごく普通の民族博物館程度だ。パリのようなハイテクな展示機材はない。日本部門は比較的狭い部屋のなかに工芸品や衣裳などかなりの数展示されているが、非常に昭和なレイアウトと内容だ。さすがに中国部門は広くて中身も充実していた(と思う)。

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サムライアーマー展示。日本ではあまり見られないポージング

もともとこの母体となっている「ピョートル大帝の驚異の部屋」が、ここのメイン展示だ。大帝がヨーロッパ周遊時に集めたと言われるさまざまな道具や、なぜか人体や胎児の標本がならんでいる。これは以前アムステルダムのエルミタージュ分館で見た展示と同じようなものだ。アムステルダムの方が品数が多く、言うまでもなくレイアウトも洗練されていた。寒々とした古い展示室でこれらを見物すると、不気味さは倍増する。
保管庫にはまだどれだけのものがあるのかわからないが、よく集めたものだなと思う。
30年前には、大黒屋光太夫の扇子などの遺品展示があったそうだが、現在ではなくなっている。光太夫がずっと携行していた浄瑠璃本は、大学の書庫に保管されているらしい。展示を観終わってからミュージアムショップに寄り、お土産を買ってから今度はバスに乗らずにネヴァ河の橋を歩いて渡った。
おそらく夏には観光客でにぎわっていると思うが、真冬の今は人通りはそれほどなかった。凍った河を眺めながらひとりで歩いていると、自分がいるところがいつでどこか、などわからなくなるような不思議な感覚にとらわれた。寒くて頭の調子が鈍くなるせいかもしれない。

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橋から見たエルミタージュ。クンストカメラは対岸にある

橋を渡り切ってから、次は聖イサアク大聖堂に行こうと思いつき、またバスに乗った。
2に続く

*1:もともとはソ連の赤軍の日。十月革命で社会主義政権が建ったロシアでは第一次世界大戦でドイツ軍に対抗するため、ロシアで最初の労働者・農民から構成された赤軍が組織されたことの記念日だった。2002年に「国際婦人デー」があるのだから男性デーも作ろうということで、この日に制定された。

*2:ご存じのとおり、私はとにかく人類学博物館というのが大好きなのだ。そしてここはロシアで最古の国立博物館。

*3:ひとりだったら、どこでも「あじーん」(1名)というのを駆使する。あとは「はろー」であいさつ「すぱしーば」「ぱじゃーるすた」を忘れずにってとこか。