リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて @世田谷美術館

新国立劇場に行く前に、世田谷美術館まで出かけた。

田舎もんの私にとっては、東京で上野や初台以外に行くのはたいへんハードルが高い。
乗り換えが複雑で、日本語なのに読み解くのに時間がかかる。
ルートを調べて行っても、当該路線の改札を探して右往左往することがある。
東京の公共交通機関を利用できる人なら、世界中どこへ行っても大丈夫だとさえ思う。
今回は土曜日に*1「舞台芸術について語り合う婦人会」があったので、東京に一泊したため持ってきた小さいキャリーバッグも、どこに預けていくのが都合がいいか考えているうち、結局新国立劇場のクロークに預けるまで、持って歩くことになってしまった。
雨がひどかったので、用賀駅からの往復はタクシー。行きは砧公園の入り口で降ろされてしまって茫然としたのだが、美術館付属のレストラン側の駐車場まで行ってもらえばよかったのだ。
帰りもレストランから車をよべる。

さて、「ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」というタイトルで、他の美術館でも展示があった*2松本瑠樹コレクションを見物。
ロシアアバンギャルドというのは文学や建築デザインに至るまで、けっこう人気のジャンルなのだと思う。もちろん私も好きだ。
キリル文字のデザイン性もあるだろうけれど、プロパガンダ広告の版画やポスターアートは100年たってもup-to-dateのかっこよさがある。
*3コレクションの中核、ステンベルグ兄弟作品の中には、現代のデザイン技法がほぼ集約されているそうだ。
現代の自分の目で見ても、タイポグラフィや幾何学的なデザインがかなりクールだ。
この中にあると、カンディンスキーのアールヌーヴォー風のポスターがぬるく見える。
↓ はモンタージュ理論で有名なレフ・クレショフの映画『掟によって』の映画ポスターなのだが、ステンベルグデザインにもモンタージュ理論が適用されている。

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昨年私はこの映画を見た。映画自体も衝撃的な作品だったし、ポスターともども素晴らしい。これが90年前のロシアの街角に貼られていたのかと思うと、この前から立ち去りがたいまでの感銘を受ける。モノクロ映画の内容を、識字率の低かった当時の人々に独特の色と斬新なデザインで見せる。特に、構成のアクセント、あるいはメインに使われる「赤」。色のメッセージというものが確かにある。赤は褪色しやすく、果たして実際にステンベルグ兄弟の見た*4赤とは違うかもしれない。

パリ万博でステンベルグ兄弟の作品展示を見たピカソがその才能を絶賛したという。その後彼らは、ハリウッド映画からも誘いを受け、亡命をすすめられたが、祖国か新天地か…の選択になる。結局彼らは祖国を選んだ。
なのにロシアアヴァンギャルドの作家たちはスターリン弾圧により、活動の場を失った。
政権の中枢にいた人々は、彼らの芸術性の高さを理解できず、また芸術そのものの価値を認めていなかったのだ。
さらに弟のゲオルギーは、33歳の若さで不審な事故により急逝。残された兄ウラジミールは、これまでの作品の保管と修復に明け暮れる日々だったという。
その作品たちが再び、日の目を見たのは1990年代。
1997年MOMAでの展覧会では、舞台『三文オペラ』の衣装デザイン画、『聖女ジョウン』の背景画もあったそうで、そういうのも見たいな、と思った。
雨降りの中で、行くのやめようかと一瞬迷ったのだけど、見に行ってよかった。
この企画展は11/24まで。

http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/images/sp00170_ad.pdf

 おまけ: レフ・クレショフの傑作『掟によって』全編。もちろんサイレント。 


По закону (1926) - YouTube

*1:単なるオフ会ともいう

*2:デザイナーである松本氏がポスターコレクターであることは知らなかった。収集内容も、保管状態も素晴らしい

*3:カンディンスキーやマヤコフスキーの作品も含む

*4:「幻の赤」といわれるそうだ。まあ、1930年代のソ連のプロパガンダ広告も赤いんだけど…