リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Winterrise: Mark Padmore, Tenor & Paul Lewis, Piano 08122014

Mark Padmore のシューベルト歌曲シリーズは2年前、東京でも演奏会があった。
その時は『水車屋の娘』を聴きに行った。今回は名古屋にPadmore が*1初めて来てくれた。
せっかくの機会であるのに、またここでは七分くらいの入りで、ほとんどがリートファンかピアノファンみたいな客層であった。当代一のエヴァンゲリスト、またIan Bostridge  と人気を二分する英国演技派テノールであるのに…。

 もちろん全曲休憩なしで演奏される。
Padmore が舞台に登場すると、灰色の緊張感が辺りに広がる。それほどの年齢でもないのに、ずいぶんと枯れた雰囲気になってしまった。
比較的やわらかなドイツ語の発音と、抑えた表現。かっちりと伴奏としてコントロールされたLewis のピアノも、彼の声を取り囲むふわふわとした響きをまとめる。
私にはPadmore の声はいつも細い糸をまとめていく、綿飴か糸つむぎみたいに聞こえるのだ。
静かに歌い継いでいき、『春の夢』に達すると、まさに夢のように明るい響きが聞こえた。そのまま歌は続く。
Bostridgeできいた同作品は、悲劇的で聴く人の感情に直接訴える絶望感があった。
しかしPadmore の演奏はけして悲劇に終わらない。凍える冬であっても、春の明るさが感じられる。
静かに静かに演奏が終わると、はじめにあった緊張感は、霧が晴れるようになくなっていた。
たぶん名古屋では集客ができないと思うけど、今度はブリテンの歌曲聴きたいな。

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終演後、サイン会があった。私はCDをもってこなかったし、会場で買うものもなかったので、写真を撮らせてもらおうかな、と、ぼけっと並ぶ列を見ていたら、友人がいたので便乗。Padmore もLewisもとってもかんじのいい人なので、サインいただいてちょっと笑顔を見るだけでもいい気分になれるのだ。
Lewis はまたこちらに来る予定はあるようだが、Padmore はどうかなあ。また来てね。

*1:Lewisはピアノリサイタルで同じホールに来たことがある