リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Teseo at Badisches Staatstheater 25022015

HÄNDEL-FESTSPIELE KARLSRUHE 2015 今年の新演出《テゼオ》は、3人の若いCTの競演が見所かと思われる。特に芸の成長著しく、ドイツで人気急上昇中のValer Sabadusが題名役なのだ、期待するなって言っても無理だ。また、ヘンデルの作品の中でもあまり上演される機会がないものであるところも、一見の価値ありとみた。

この前日の午後に、SWR2のClusterという番組の公開放送*1が劇場のホワイエであったので、出かけてみた。出演者は次のとおり

Valer Sabadus, カウンターテナー 《テゼオ》題名役
Michael Form, 《テゼオ》指揮者
Michael Fichtenholz, ヘンデルフェスティバル芸術監督
Larissa Wäspy, ソプラノ《テゼオ》クリツィア役
Markus Möller, ドイツヘンデルゾリステンメンバー
司会者: Ines Pasz

SabadusとWäspyには歌手になった経過とかきき、Sabadusの新しいCDの曲をかけたり、もちろん今回のオペラのこと。ヘンデルフェストの監督はさまざまなバロック楽団をもつ指揮者たちのことにふれ、さらなる野望を語っていた、ようだ。あまりよくわからなかった。自分の出演順を待っているWäspyが私たち*2の少し前に座っていて、その姿と声がすごく可愛らしかったので、オペラを見るのがますます楽しみになった。トレーラーで、黄色いドレスを着ているのがクリツィア。


TESEO - YouTube

《 テゼオ》の物語はギリシア神話のテセウスのごく若い頃のエピソードに基づく。アイゲイウスの息子であることを知らせにアテナイに向かったテセウスがアイゲイウスの妻、メデアに毒殺されそうになる。その陰謀を間一髪で逃れる。身につけていたサンダルと剣により、アイゲイウスの息子であることが証明されたのだ。
*3
これがまたバロックオペラにありがちの貴種流離譚とお国騒動、恋愛関係があり、デウス・エクス・マキナ的な終わり方をする。
テゼオの恋人アジレアにアテナイの王エジェオ(アイゲイウス)は横恋慕しているし、メデアはこのオペラではエジェオの妻ではなく婚約者で、テゼオを愛しているのだ。そして、民衆は次期国王にテゼオを求めているということがエジェオを怒らせ、メデアによるテゼオ毒殺の謀略にはまる。最後は父子関係の発覚により、メデアの悪事は成立せず腹立ち紛れに復讐として宮殿に火を放つが、ミネルヴァ降臨によりあっというまにことはおさまり、強制終了。

Teseo: Valer Sabadus  
Agilea: Yetzabel Arias Fernandez 
Egeo: Flavio Ferri-Benedetti
Medea: Roberta Invernizzi
Clizia: Larissa Wäspy
Arcane: Terry Wey
Priester der Minerva: Mehmet Altiparmak

Musikalische Leitung: Michael Form
Regie: Daniel Pfluger
Bühne: Flurin Borg Madsen
Kostüme: Janine Werthmann
Licht: Rico Gerstner
Video: Benedikt Dichgans / Philipp Engelhardt
Dramaturgie: Michael Fichtenholz

物語はありがちでも、曲は一風変わっている。《リッカルド・プリモ》が、イタリア・バロックの形式そのままなのに対し、《テゼオ》はリュリの作品のための台本を流用したせいか、ヘンデル先生のトレンディさのせいか、フランスバロックオペラのスタイルが濃厚。レチって歌って退場…がほとんどない。現代の私たちにとっては聴きやすいと思う。

期待どおり、クリツィアとアルカーネのカップルはフレッシュなかんじでよかった。Terry Weyは若者らしいヘアスタイルのヅラ装着*4のため、年齢相応の若さに見えたし、Larissa Wäspyは前日に見たとおり学生さんみたいな可愛らしさ。このふたりの声はデュエットでぴったり。時折のぞく不安定さも含めて、音量といい声質といい雰囲気が合っているのだ。ふたりのちょっとしたけんかみたいなかけあいがすごく楽しかった。ここに妙な色気を持つ Fernandezが入るとまた引き立つ。事実上のヒロインみたいなメデア役はRoberta Invernizzi. 上手だし、魔女らしい拵えをしているのだけど、ちょこっと迫力不足ではあった。このへんは王様役のFerri-Benedettiがひどくへなちょこなので、それで補っているところもあった。
さて、題名役のテゼオは、曲が始まって1時間程経過した2幕でやっと登場する。スレンダーな姿によく似合う鎧兜姿であった。隣席の女性たちの「キタワァ━.+:。(n'∀')η゚.+:。━ッ!!」というわくわく感が私にもろに伝わってきた。さすがだ、サバちゃん。テゼオはソプラノカストラートの役で、かなり高い音域までカバーするSabadusでも楽譜通りに歌うのは難しいのかもしれない。しかし全般には好調で、いつもの彼らしく一生懸命歌っているのがわかった。
ひっかかりがあったのは王様のFerri-Benedettiだった。とにかく声が安定しない。頭声がきちんと出ず、すぐに地声に切り替わる。Fagioliのようにレンジの上下でスイッチするのではない。これはもしかして笑いどころとしてやっているのかな?と思うくらい頻繁なのだ。後に風邪(?)かなにかで実際体調が悪かったと知った。もともと美声でけっこうバリトン声もいい人なのだが…。
こういうデリケートさと、他の声種との発声方法の違いにより、全幕通して安定した歌唱をすることがいかにCTにとって難しいかということを実感させる。

演出はどうということはないものだった。装置はベニヤ板のパネルと簡単な階段とか台があるだけで、そこによくあるビデオが投影され*5たり、回転させたり。メデアの魔術の表現がかぶりものをしたこども(?)やあやしいダンサー複数だったりというものだ。最後のミネルヴァ降臨は大きな手の吊りものだった。時代設定も特定の時間ではないようだし、演出の主張は感じられなかった。低予算でいかに楽しく見せられるか、という見本のようだった。
もともとの作品のおもしろさと、丁寧な演奏*6で、鑑賞の満足感はあった。

f:id:Lyudmila:20150311183702j:plain 私の席(平土間2列目かみて寄り)から写した客席

f:id:Lyudmila:20150311183908j:plain カテコこんなかんじ

f:id:Lyudmila:20150311184014j:plain かわいいラリッサとテリーくん

f:id:Lyudmila:20150311184135j:plain サバちゃんも可愛い

 

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この日の開演前、私たちはちょっとした仕事を達成した。
手持ちで余っていた翌日の《リッカルド・プリモ》のきっぷ一枚を売ってしまおうとの作戦だ。
実は前日同演目の時に売ろうとした*7が、当日の券を売る人がけっこうたくさんいてあきらめた。
で、ダメもとで《テゼオ》の日に「明日の券あります」と提示して立っていよう、ということにした。この日も当日の余り券を売りたい人が複数いた。当然別演目を売りたい人はいない。5分程経ったところで、ぶらぶら様子を見に来たと思しき近在のおじさんが、「リッカルド・プリモの演出はおもしろいね。もう一回見たいと思っていたから」と言って買い取ってくださった。この成果にも満足!

*1:午前中に中央駅をうろうろしてる時にtwitterで教えてもらった

*2:アムステルダムのKさんと私。またいっしょにオペラに来られたのだ ^^ 

*3:この後、テセウスは例のミノタウロス退治をやりおおせ、妻にしたはずのアリアドネを途中でなぜか置き去りにしたり、他人(神か)の妻を誘拐しようとしたり、よくわからない冒険をする。オペラではごくまっとうな英雄として描かれているからいいのだ

*4:彼は高いポテンシャルを感じさせる素頭をしている

*5:テゼオやアジレア、メデアの顔の大映しだ。ヴィジュアル派でよかったね

*6:丁寧ではあるのだ。雑に感じるところはまったくない

*7:カッセで、リターンはできないが、そこで売るのはいいときいたのだ