久しぶりにMET HDを観に出かけた。今季は他に《マクベス》を観ただけだ。*1
《IOLANTA》
IOLANTA: Anna Netrebko
VAUDÉMONT: Piotr Beczala
DUKE ROBERT: Aleksei Markov
KING RENÉ: Ilya Bannik
IBN-HAKIA: Elchin Azizov
《BLUEBEARD’S CASTLE》
JUDITH: Nadja Michael
BLUEBEARD: Mikhail Petrenko
PRODUCTION: Mariusz Treliński
チャイコフスキーのオペラの中では、私は《イオランタ》が最も好きかも。自然や創られたもの、に対しての賛美が満ちあふれた音楽だと思う。
ひとつひとつのアリアにも特徴があり*2、心情や情景が鮮やかに描かれている。ただし、ロベルトのアリア「私のマチルダほどいい女はいない」だけは、「なんでここでこの曲?」と必ずつっこみたくなる唐突さで笑っちゃうのだ。こればっかり歌ってるような Markov が上手すぎるのがよけいおかしかった。
はまり役のネトコちゃんとゲルギー親分*3で悪かろうはずもない。演出についてあとでまとめて書くが、Treliński の演出は、マリインスキーのレパートリー(2009年〜)版に手を加えたものみたいだった。衣装と細部は違うが、装置やビデオ使用はだいたい同じようだ。
《青ひげ公の城》も、好きな作品だ。Nadja Michael には適役だと思うが、M.Petrenko にはこういう調性感のない作品って合っているのかな?とちょっと疑問*4だった。まあ、そのへんはなんとか自分で調整してきいてしまえばいいのだ。フォークロリックにもきこえるオケの音だけでも、ぞくぞくするような曲なのだから。
《イオランタ》の舞台拵えは、もとのマリインスキー版のを少しアレンジしているようだが、演出は《青ひげ公の城》と組み合わせることで、変えているのかもしれない。
インターミッションの対談で話していたことによると、2作品観て、理解できるということだった。このところ声が暗く重くなってきたネトコちゃんとナディアさん*5の声質が似ているように感じ、演出家の言うひとりの女性の表裏とかトラウマの発現とかというのはちょっとわかるような*6気がした。
特別変わった演出とは思わなかったけど、ひとつの舞台作品として統一感を持たせるためだろう、《イオランタ》が微妙に読み替えられていた。ユディットの得体の知れなさは可憐一辺倒ではないイオランタにも通じる。
演出家の腕のみせどころ、というのはやっぱり《青ひげ公》のほうだったかな。サスペンス映画みたいだった。《イオランタ》にはここまでの思い切りは感じられなかった。
それぞれにとてもいい(というか私好みではある)演奏だったけど、《イオランタ》はひとつで独立してみたほうがよかったかも。
DNOでやっていたダラピッコラの《囚われ人》と《青ひげ公の城》のダブルビルが音楽的には興味深い組み合わせかな。
このHDを観に行く前、突然の人事異動(お勤めしていれば当然なのだろうが、年数とか経験を考えるとちょっと信じられない程度のびっくり異動だったのだ)の内示にすごくへこんでいた。
そんな時すがるのは、私はやはり音楽だから、このタイミングで生の舞台じゃなくてHDでも、これが観られてとてもよかったのだ。