リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Thomas Hengelbrock & NDR simphonieorchester Hamburg at Nagoya 06062015

NDR響、今年はアジアツアーの中での日本公演ということで、名古屋にも来てくれた。
たいへんうれしいことなのだが、いまひとつ客の入りが悪かった。七分というところだろうか、3階はほとんど空席。残念なことである。救いはソリストの Arabella Steinbacher のファンの皆さん。

ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」op.92
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64   Violin--Arabella Steinbacher
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 op.92

アンコール

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 東京公演ではマーラー交響曲1番のハンブルク稿がメインプログラムであったが、ここではベト7。ハンブルク稿に興味はあれど、私はマーラーをあまり好まないので、ベト7でよかったと思う。おまけにメンコンは前回の来日公演でも入っていた。しかし、こちらはソリストの違いで曲の表現や音がずいぶん違うことがわかった。Arabella ちゃんは濃いグリーンのドレスが中胚葉型のひきしまったスタイルにぴったりで、佇まいも非常に美しい。少しひっかかりのあるかっちりとした音で、表現は柔軟。さっぱりとした演奏であるところも好ましいのであった。美人は5割増になる私の耳のせいでもなかろう。

清冽、斬新、というのが Hengelbrock についてまわる評価だと思う。私もよくそう感じる。しかし、今回はちょっと違った。
清冽さがないのだ。やけに厚みというか、重さを感じるところがあって、これはNDR響がもともと持っている性格なのかな?と思った。
この頃よく聴いているのが、古楽系指揮者の自前のアンサンブルが古典派やロマン派を作品を演奏するというものなので、そのせいかもしれない。
たとえば、クレさんこと Teodor Currentzis とMusicAeterna のはっちゃけたベト7*1みたいな軽さとスピード感がなかった。演奏速度でいったら、NDRのほうがずっと速いのだが。
弦パートのまとまりと全体の支えとなっているところ、そしてウワサの序奏のトゥッティがいきなりアップボウで演奏される*2などは、Hengelbrock 色で私には好ましいのだった。賛否があるのは当然だ。
そうでなくてはおもしろくない。

それから、今回のプログラム冊子にたぶん今まで言及されたことはないのではないか*3と思われるHIPについての那須田氏の解説が掲載されていた。
多くの人が耳慣れないだろうHIP(Histricaly informed Performance)についての Hengelbrock のアプローチなどが書かれていた。HIPはおもにバロックオペラの演出などに見られ、オケの演奏についての「ピリオド」という表現とは少し意味が違うように私は考えている。HIP上演は2月に見たカールスルーエの《リッカルド・プリモ》のようなもの。

 

lyudmila-galahad.hatenadiary.jp

 

私が Hengekbrock に興味を持ったのは、バッハの《ロ短調ミサ》、パリオペラ座の《オルフェとエウリディケ》もあるが、まず2006年ザルツブルク音楽祭の《牧人の王》*4だったのだ。DVD で見たその中に、指揮者兼演出家としてのインタビューがあった。そこで彼は、作曲された時代において、その作品がどのような意味をもち、どのような環境で演奏されていたかを、作曲者の書簡やその他の歴史的資料から探り、それを演奏や舞台に再現しようとした、と語っていた。それがまさしく「歴史的情報を採り入れた」もの、それ以降、一年で終わってしまったがバイロイト音楽祭での《タンホイザー》*5、一昨年の《パルジファル》プロジェクト *6 などもそのアプローチで演奏していた。そういうところこそが私の好む所以なのだ。

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公演後にソリストと指揮者のサイン会があった。東京公演でもあったときいたので、プログラムを購入して備えた。
ソリストの熱心なファンが多かったようだ。私の前にいた男性は Arabella ちゃんのCDリブレットに何枚もサインをもらっていた。
私はプログラムはダミーで、このCDにサインをいただいた。

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Johanna Wokalek は、ドイツの女優で Hengelbrock のパートナーだ。彼女もとても優れたパフォーマーなのだ。私のもっているディスクはほとんど Balthasar-Neumann-Ensemble  とのものだからしかたない。それにこの方がインパクトあるでしょ。
マエストロは「君か、また会ったね〜」なんてにこにこ言ってくれたけど、冗談よね。

 

 

 

 

*1:かなり気違いじみていて笑いがとまらないくらい。ティンパニ協奏曲か!と言った方も

*2:びっくりしちゃうけど、かなりインパクトがあって私は好き

*3:あるよ、とご存知の方はぜひ教えてください

*4:いずれも彼のアンサンブルと合唱団の Balthasar-Neumann-Chor と Balthasar-Neumann-Ensemble の演奏である 

*5:ドレスデン初稿かなんかで、抜粋版とか短縮と言われたくらいのをやっちゃった

*6:これもBalthasar-Neumann-Chor と Balthasar-Neumann-Ensemble によるもの