リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Fidelio at Teatro di San Carlo 25092017

同公演2回目の鑑賞。席は平土間前方下手側。舞台をちょっと見上げる格好になった。ステージ付きも楽しいが、この作品はコンサート形式の方が合っているような気がする。舞台設定がはっきりしていて、視覚に頼らなくても情景を思い浮かべることができるからだ。これはワーグナーの楽劇にも通じる、音楽の雄弁さだと思う。
前回と変わらず、ドラマチックに語られるレオノーレの心の声。マルチェリーナへの優しい気遣いや、夫を救うという固い決意と不屈の精神がきめ細かに表現されていた。
Metha師の采配のもと、このソリストチームは素晴らしく、各々役の個性にぴったりと見えた。

 涼やかで愛らしいマルチェリーナ。若くて熱心、実直なヤキーノ。常識的で同情心のあるロッコ。実は小心な悪党ピツァロ。朋友を探していたといってる割にはのん気そうなドン・フェルナンド(あまりに出番が少なくてまったく印象に残らないが)
主役夫婦ふたりは際立っていた。kampeのレオノーレは初手から全開で、ものすごく響く声にびっくりしてしまった。何度も歌っていてしっかりものにしている役柄だけに、うまいなあ~と感心するほかなかった。ひとりでアリアを歌う時は、誇らかに頭を上げていつでも豊かな輝きをもった声を丁寧なフレージングにのせていく。
ピツァロと対峙する場面「彼の妻を殺してからにしなさい!」は迫力で、男どもの「彼の妻?」「誰の?」「俺の妻?」とおたおたするところ、狭い舞台上3人で縮こまっているようになって笑えてしまった。
Seiffertは、演技の負担のないぶんますます好調。余裕綽々であった。高音でクラックするんじゃないかと心配しながら聴かなくていいのは快適だ。
終盤、手に手をとって歓喜の歌を歌う時は本当にうれしそうだった。
オケはそんなに上手ではないけれど、さわやかで瑞々しい音をMetha師は引き出していた。ところどころ、あれ?とずっこけ気味なことはあったが、それも素朴な味になっていたと思う。
指揮もソリストもいっさい譜面はなし。*1 
公演は2回だけだったが、他でも上演してほしい、素晴らしい布陣だった。
Metha師にもまだまだがんばっていただきたい。

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 この日はfavouriteのエージェントCさんが来ていたので、公演後は3人で近くに食事に行った。マエストロは80歳こえているのに、譜面も見ず、椅子も使わないんだからすごいわよね、と感心しきり。しばらくいろんな劇場やホールの音響について話していた。
ナポリでも普通のレストランは12時で店じまい。1時間くらいのおしゃべりで、じゃまたこの次にね、とお別れ。
ホテルに戻り、ちょうどリフトにいっしょに乗ったご夫婦も今日のプログラムを持っていた。「私も劇場に行ったんですよ、素晴らしかったですね、どちらからですか?」と話しかけると奥様の方が「イギリスからよ。ほんとによかったわね、あなたもこれを観にわざわざ来たの?」とうれしそうにおっしゃった。「そうです、私は日本から」「まあ!あなたの方が遠いわね」
そうですね、でもいつものことだけど。とは言わずに、ニコニコ。お休みなさい。

*1:ナレーションには台本があったので譜面台を使用していたが