David Bergmüller : conductor & lute
Olivier Fredj : video and stage director
Ferran Albrich Solà
Johanna Rosa Falkinger
Luciana Mancini
Ambra Biaggi
Ilyà Dovnar
Lazar Parežanin
この舞台作品は私にとってひとつの事件だった。バロックオペラファンの仲間とぜひ共有したい体験だったが、おそらく二度と出会えることはないものだと思う。ねらってこの作品を見に行ったのではない。ウィーンにいる日に何かおもしろそうなものを上演していないかな、とたまたま見つけた公演だったし、疲れてたら行くのはよそうかなと考えていたくらいだった。チケットはアンデアウィーン劇場サイトで管理されていたので、場所がまるっきり反対方向にある劇場だということも知らなかった。Kammeroper はシュテファン大聖堂のさらに先に行ったところにあり、ウィーン国立歌劇場からは歩いて 20 分弱くらい。ケルントナー通りを過ぎると急に人通りが少なくなる道の路地を少し入ったところにあった。
小さな芝居小屋みたいな劇場だが、入るとすぐにビュッフェがあり、オーディトリアムは階段を下りた先でびっくりするほど小さい。300 席はないと見えた。それに古いし、椅子が狭く隣に大きい人がきたら悲劇。開演 30 分前に作品解説が始まった。私の席は最前列の上手よりの席で、そこに座っていたら解説をする先生が「そこじゃ聞こえないよ~、真ん中にきて」とおっしゃるので、中央あたりに場所をかえて聞いていた。入口から席までの間にかなり広いバッファがあるため、先生はその空間の真ん中らへんでお話をされたのである。
モンテヴェルディのオペラのうち完成作品として今も上演されるのは《オルフェオ》《ウリッセの帰還》《ポッペアの戴冠》の3作で、失われているオペラ《アリナンナ》の中のアリア「アリアンナの嘆き」は現存して上演されるもののひとつではある。Combattimenti はモンテヴェルディのマドリガーレのひとつ、《タンクレディとクロリンダの闘い》に「アリアンナの嘆き」等、他のアリアやマドリガーレを加えて拡大し、80 分の作品に仕上げられたものだった。
歌手はもとのマドリガーレに必要なテノール2ソプラノ1にバス、メゾソプラノを加えて6名に拡大し、合唱、ソリスト、ストーリーテラーと場面に応じての歌と演技を役付けられていた。器楽アンサンブルはかなり小規模でヴィオール、ヴァイオリン、テオルボ、チェンバロと小型の電子ピアノ、打楽器パートに指揮者はリュート弾き振り。電子ピアノは効果音程度に使用されていた。舞台演出はバロックオペラ的なものと現在頻繁に採用される 3Dビデオプロジェクションを使用したものだった。振付も 17 世紀のバロックジェスチャー(これはシンプルで時代的要素が少ない衣装ともマッチしていた)とパントマイム、一部それらに当たらず動くところもあった。途中でおもむろにスタンドマイクで歌われたりしたが(電子音響で声を加工するため)歌唱はバロック唱法で、必要があればミュージカル風に増幅されていた。ほぼモノディ様式で演奏され、あの何と言うのだろう特徴的な起伏のある語りが印象的だった。
二つのアイデンティティの闘争と融合がこの作品が表現するものであり、その表現のために音楽、舞台演出ともにかなり練られたものだった。最初に楽器の並びから予想していたよりずっと電子楽器の使用される分量は少なく、古楽的な要素がこれほど現代的になるのかと驚嘆する内容だった。
リュート奏者兼指揮者と舞台演出家の渾身の作と言えるんじゃないかと思った。
演出上、かなり照明効果を入れる部分があり事前にフラッシュライトを使用するので、苦手な方は注意するようにとの告知があった。
おそらくプレミエから評判をよび、最後から数日はチケットは完売だった。だろうなあ。これ録画して放映あるいは販売することはないのかな。またどこかで再演希望。
たくさんの人が体験すべき作品だ。