バイエルン国立歌劇場のリング新制作が始まり、Kratzerの演出がたいへんおもしろいとのことで大期待
Conductor: Vladimir Jurowski
Director: Tobias Kratzer
Wotan: Nicholas Brownlee
Donner: Milan Siljanov
Froh: Ian Koziara
Loge: Sean Panikkar
Alberich: Martin Winkler
Mime: Matthias Klink
Fasolt: Matthew Rose
Fafner: Timo Riihonen
Fricka: **********1
Freia: Mirjam Mesak
Erda: Wiebke Lehmkuhl
Woglinde: Sarah Brady
Wellgunde: Verity Wingate
Floßhilde: Yajie Zhang
鑑賞前に「おもしろい舞台」と評判をきいてはいたが、プレミエのレビュー等はいっさい読まずにやってきた。
「Gott ist tot」と大きな落書きがある崩壊した聖堂を舞台に始まり、そのとおり徹底した宗教(キリスト教)批判と揶揄で演出されている。
黄金は使われていない教会の入口で、ごく普通の学生のいでたちをしたラインの乙女たちと浮浪者風アルベリヒとの間でやりとりをされる。
その場が終わると舞台は回転して足場を組んだホールが現れる。ヴォータンたち神々はそこに居住したまま再建されるのを待っているようだ。不動産業者のファフナーとファーゾルトは司祭の普段着のような黒スーツで、再建後の広報計画の提案に余念がない。
大聖堂の中によくあるバナーにも「あなたのヴァルハラ、あなたのヴォータン」などという惹句が記載されている。宗教施設というより観光資源化するのだろう。
神々のやさぐれ具合なかなかで、することがなくてドンナーやフローは床にマットを敷いたうえにごろごろしているだけである。
ローゲだけは最初からタバコをふかしながら端にたたずんで成り行きを見守っている態。
ニーベルハイムに出かける旅は、Kratzer得意の舞台外の映像が流される。ずいぶん遠くへ行くようで(ドイツからUS?)飛行機で移動。ヴォータンはセキュリティで槍を取られたりするも、ゴキゲンでタッパーに入れたリンゴを食べたりしながら目的地に到着する。アルベリヒとミーメの工房は現代的な作業場だった。そこでヴォータンはヒキガエルに変えたアルベリヒを空いたタッパーにいれて帰途につく。その様子はまたショートフィルム風の映像である。ヴォータンはまたもや税関で生き物の持ち込みで止められたり*2機内の隣の客にヒキガエルを見せて嫌がられたりの小芝居がほんと巧くて笑える。
ヴォータンとローゲは歌も上手いが、演技が秀逸だった。
再建中の聖堂に戻ってからは全裸のアルベリヒの姿に、何か見えるんじゃないかと気をもんで音楽を聴くどころではなくなってしまった。全裸演出というのはこの頃よく見るが、捨て身の覚悟が要る割には評価がいいわけでもないのでどうかと思う*3。
終幕、ゴシック建築の聖堂として再建された建物に中世風の衣装を着けた神々の姿がある。フローの声にステンドグラスの覆いが外れ、神々は中央の祭壇彫刻のある場所*4にそれぞれ収まっていく。中央はもちろんヴォータン。この画面が見事で、音楽が終わってからも活人画としてアプローズもそのままで受けていた。

歌手は私はほぼ聴いたことがない人たちだったが、ヴォータンのBrownleeとローゲのPanikkarが特に素晴らしかった。冷静な狂言回しとしてのローゲにぴったりだ。ずっと出ててほしい、何某か歌っててほしいと思った。Brownleeはワルキューレにも出るようなのでぜひ聴きたい。安定したスムーズな発声で若々しくよく響き、キャラクターがものすごく魅力的に映る。
ユロ兄の音楽は原初の和音から一貫した緊張感が保たれ、重厚に描けば受けるだろうというようなあざとさとは無縁だった。こういう冷たさが私は好きだ。2027年にユロ兄は初めてチクルスで振ると話していたので、やはりこれはなんとかして体験したいものだと思っている。

