リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Boris Godunov at NNTT 15&23112022

新国立劇場で《ボリス・ゴドゥノフ》を上演するらしいという噂は数年前からあった。これまでの芸術監督だったら期待はできなかったが、大野監督は「バロックオペラとロシアオペラをシーズンプログラムに入れる」と宣言し、実際そうやってきた。そろそろガチロシアものが来てもおかしくはないわな、と思っていた今年の初め。
2/22にいつものウェブパトロールでワルシャワオペラのトップページにこれを見つけた。

(スクショ撮っといてよかった)

ポーランド国立歌劇場の新演出《ボリス・ゴドゥノフ》はなんと新国立劇場との共同制作!
狂喜であった。タイトル役はEvgeny Nikitin  メインキャストはそのまま日本に来る可能性があるが、確定かどうかはわからない。
ところが2/24にロシアによるウクライナ侵攻が始まった。あっという間にあらゆるジャンルでのロシア排除が広がった。3/1、新国立劇場の新シーズンのプログラムが発表され《ボリス・ゴドゥノフ》は、開場25周年の記念プロダクションとして入っていた。メインキャストもポーランドと同じ。嬉しくてZhenyaにテキストを送ったところ、すぐに「(このことについては)忘れろ」と返ってきた。何があったかと急いでワルシャワオペラにアクセスすると、このプロダクションの上演は中止するとあった。おそらくZhenyaは新国立劇場での上演もなくなると考えていたのだと思う。世界は分断されつつあり、私はもう何も言えなかった。
ロシア人キャストは来られないかもしれないが、大野監督は日本人だけでも上演できるように考えている、とおっしゃっていた。上演が叶うか心配な方々も多かったと思うが、結局無事に成された。もちろん当初のロシア人キャストはキャンセルになった。

オペラトークの配信なんかも見て、わくわくと出かけた11/15 の初日。私の席は4階のR側。
通常であれば多少見切れるところはあっても舞台全体は見られると余裕綽々で着席。舞台奥のプロジェクションは見えなかったが、もっと重要な部分がまるで見えてないことに気づかなかった。ちょっと変わってはいるがいつものTrelińskiの舞台だ、と見ていると「リトアニア国境近くの居酒屋」の場面でグリゴリーが「クレムリンを目指す」との字幕が。見間違いか、ともう2度ほど「リトアニア」の単語が出るはずだと注意して聞いてみたが、聞き取れなかった。字幕には一度もリトアニアはでてこない。ここが混乱の始まり。
休憩で同行の友人と話していたところ、舞台上手のフョードルの部屋も私には全く見えていなくて、フョードルと聖愚者はどうも同じ人に設定されているらしいことも、この時点でやっとわかった。フライヤーの裏に記載されていた各幕のあらすじを読んで、今回の演出では単にポーランドの幕を除外しただけではなく、ポーランドの国との関わりを完全に無くした設定をしといると理解した。ロシア正教とカトリックの対立も描く必要はない。

1869年版と1972年版の折衷とのことだったが、場面的には1869年版の最後に1872年版の革命の場がついているものだった。音楽が1872年版準拠の部分が多かったように感じた。
欧州の劇場なんかでは、よく見られる心理劇っぽい演出でなかなかトリッキーではあると思ったが、何しろここでは観客の置いてけぼり感がすごかった。
演奏もイマイチだったので、こりゃもう一度見なくては、と。初日はアフタートークがあって、そこでの質問を受け付けていたのでリトアニアの件を質問用紙に書いて出して見たけど、はっきりとした回答は得られなかった。この時に大野監督がTrelińskiとまたロシアの有名なオペラを作る計画があると話されていたので、期待。エクスの《炎の天使》そのままでいいじゃないですか。

11/23 今度は全体見渡せる2階の中央ブロック席にした。一度見ていると次に何が来るかわかるので置いていかれることはなかった。
1869年版で描かれる「ボリスの物語」がボリスだけに収斂している。国家間の関わりを無くしているところが、自制的に合っているなと思った。
ボリスとその家族との関係に終始するので、規模感が小さく、それは音楽にも表れていて通常「戴冠式の場」なんかは盛大に鐘と合唱が爆発するんだけどそれもなかった。読み替えではなく視点の転換、というところか。

ドラマチックで演出家の語る物語としては映画みたいでおもしろかった。ただ初めてみる人にとっても、この作品が好きな人にとっても、物語の読み解きに気を取られて音楽の印象が薄くなってしまったんじゃないかと思う。ピーメンとグリゴリーなんかはすごく綺麗な音楽がついているのに、キャラクターとして悪すぎになってて残念な感じだった。

何にせよ、ポーランドでできなかった上演を日本で果たし、意欲的なプロダクションをここで見せてくださった新国立劇場と大野監督にとてもとても感謝。
次のロシアオペラも期待してます。いつかZhenyaもまたここに立てますように。

最後に、本物のロシアンバスのボリスのモノローグってこういうのよ。と、オリジナルキャストだったZhenyaのお歌どうぞ

youtu.be