リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Bis: Franco Fagioli and Venice Baroque Orchestra 東京オペラシティコンサートホール 22112018

f:id:Lyudmila:20181119110807g:plain
日曜の西宮に続き、初台に行ってきた。
兵庫芸文ではいきなり大ホールでほぼ満席に近い聴衆、初日ということ緊張の度合いも高くオケ合わせも慣れていないようだったが、聴衆の集中力と歌唱力もあり随分といい演奏会だと思った。
しかし、公演3回目のこの日は期待を数倍上回るものだった。今回もバロックオケにしては大きめかと思ったが、客の入りもよく(前宣伝がかなり功を奏していたようだ)、演奏の息も合ってきていた。
私の席は2階バルコニーL側舞台より。このコンサートホールではなるべくこの位置を選ぶようにしている。音の聴こえ方がまるで違うのだ。
思った通りオケの音がまるまって上に上がってくる。
またフラちゃんの声は驚異の全方位型。背後にも倍音が広がるのだ。あの響の広がりかた、音の放射性は、実際に聞かないとわからないだろう。
キレッキレのアジリタ、3オクターブの声域、パワフルな発声と繊細な表現力。
フラちゃん自身の技術力とオペラチックな表現力は年々増しているようだ。
さらに、私の位置からみて改めて確認できたのは、彼のアンサンブルを率いる統率力だ。ここはヴァイオリンのアンサンブルリーダーもチェンバロの通奏低音も当然統率できる力があるはずだ。
にも関わらず、完璧に楽器を操っていたのはフラちゃんだった。目配り、ちょっとした指の動き、果ては声のコントロールで。これができるソリストというのは実は少ない。
有名なオペラ歌手でも、さらに有名なピアニストをアカンパニストにすることがある。そうするとどちらも相殺されて凡庸になってしまうことが多々あり、素晴らしい組み合わせで聞いているはずなのにいまひとつ…ということはありませんでしたか?みなさん。
私はアカンパニストを操れる歌手こそ最高級だと考えている。*1
確かにVBOはバロックアンサンブルとしても素晴らしいのだと思う。でも器楽曲の時よりもフラちゃんの歌が入った時の方が断然音がいいのだ。歌ごころ倍増。
フラちゃんは、ヘンデルのアリアを一曲づつ丁寧に歌う。オブリガートがつく曲では一層ひとつひとつの音符に心を込めて楽器に寄り添って歌っているのがよくわかる。
そして彼の真骨頂である鬼神のごときみごとなアジリタはものすごかった。
技術的にこれほど優れていながら、情景を声で描くことのできる表現力と叙情性を併せ持つ。音楽のパラダイムシフトを起こした天才であるモーツァルトのようだ。ミューズに愛されている。
今回は最後のCrude furieでフラメンコ風の足さばきはあったが、ペンギンみたいな可愛い横移動がなくて残念だった。
それにしても最高潮のフラちゃんを聴けるという僥倖。招聘に尽力した友人たちが誇らしい。実際の招聘元、アレグロミュージックさんの計らいにもどんなに感謝してもしたりない。

 アンコールボード最終版

f:id:Lyudmila:20181123180250j:plain

実はこの前に貼られていた紙にはアルタセルセのアリアが1.5と鉛筆書きで記載されていた。アンコール曲はもともとどこでもdopo notte とLascia ch'io piangaの2曲と決まっていたからだ。
西宮公演のあと、友人(今回の招聘に関わる)がアルバーチェ歌ってくれないかなあ、声かけてリクエストしようかというようなことを話していた。でも舞台に声をかけるのがどれほど勇気がいることか。鋼のメンタルの持ち主の私でもそのハードルの高さはわかる。アンコール曲はあらかじめ決まっているだろうし。
そこで私はジャニコンで使われるファンサうちわを作ることにした。万が一失敗してもフラちゃんにプレゼントすればいい。ということで制作したのがこれ

f:id:Lyudmila:20181123180220j:plain
f:id:Lyudmila:20181123180234j:plain

Vo Solcando の裏面はBIS! One God*2の方は裏はフラちゃんの写真とYES!の文字
これを持って会場入り、1階席の友達に頼んでみたが、無理、と言われたのでどうしようかと思った。しかし、コンサートの最初からフラちゃんがどういうわけか、チラチラとこちらに視線を飛ばす。何度も目があうので、もしかしたらいけるかも。
思いきってプログラムが終わった後にBIS!の面を出してみた。案の定キャッチしてくれたフラちゃんはニコニコ(当然アンコールはあるよ)というお顔。そこですかさずVo Salcandoの方を見せてみた。その時のフラちゃんの驚き顔。でもそのままDopo Notte
歌い終わった後に彼が「もう一度うちわ見せて」と言ってからオケのリーダーに、ちょっとだけ、アカペラするから、彼女があれ出してるしというようなことを話していた。
そしてうちわ会場に見せてと指示。ついに歌ってくれた!彼のシグネチャーアリアとも言えるヴィンチ《アルタセルセ》の1幕最後の超絶技巧アリアを。歌い終わると同時に1階席の女性が、アルタセルセの舞台で使われていた猫耳もふもふカツラをフラちゃんに手渡した。フラちゃんはそれを被り、さらにとって後ろに投げるという舞台そのままの演技をしてくれたのだ。すごい連携プレーになってしまったので、後で「友達どうしの仕込み?」と聞かれた。 カツラ投げはこれ。カツラ持参のかた、ありがとう!未知の者どうしなのに心が通じ合いましたね。

youtu.be

そのあとは予告通り、オーディエンス一緒にLascia ch'io piangaの大合唱。すごく楽しかった。
終演はスタオベ。素晴らしかった。ライトが当たってピカピカするフラちゃんの頭が眩しかった。まさに歌の神降臨。
席から立って外に出るとたくさんの人が「あの曲でファンになったから、すごく聞きたかったの」と言ってくれて嬉しかった。みっともない、と思われても当然のようなことだったのに。
またまた長蛇のサイン会の列に並んだ。One Godの方はフラちゃんにプレゼントして、BISうちわはサインをしてもらってから水戸の公演で使ってもらうように行く友人に預けた。フラちゃんはとても喜んでくれていたようで、手をさっと差し出して握手をしてくれた。練習してなかったのに、すぐに応えてくれたあなたは本当に神!
回を追うごとに聴衆の集中力も高まってきているので、最終公演の水戸でも、大成功の公演になることと思う。

f:id:Lyudmila:20181123180324j:plain
f:id:Lyudmila:20181123180310j:plain
サイン会にて。フラちゃんが持ってるのが私製のうちわ

 

*1:アカンパニストとして超一流の人もいるが

*2:カストラートの大スターFarinelliに客席からOne God, one Farinelli(神は一人、ファリネッリも一人)と声がかかったという逸話を受けて欧州のコンサートでかつてフラちゃんにもこのように声がかかったとどこかで読んだので