リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Maxim Mironov recital tour in Japan 2024

  1. プロローグ    

    新型コロナパンデミックによる行動制限がようやく緩和されてきていた2022年末、オペラ仲間の友人Nさんから「マキシムに日本でリサイタルをする話をつけてきた。チケット販売など催事運営はクラシック名古屋に依頼する。できれば満席の会場で歌ってもらいたいので、広報について相談にのってほしい」と話をされた。
    私は「誰かを応援している人を応援する」ことをモットーとしているため、迷うことはなく、出来る限りの協力をする、と答えた。すでにツアータイトルとプログラムはマキシムが決めていた。その内容でリサイタルをしたい、という強い希望が感じられたし、日本のベルカントオペラファンが満足する内容だと思った。
    マキシム自身は何度か日本でオペラの舞台にのっているし、その際にかなりのファンを獲得しているはず、さらに日本ロッシーニ協会の後援も得られるということでツアー計画は始まった。

     

    アカンパニストはマキシムの希望で、日本でも声楽コーチや伴奏のマスタークラスを数多くしているジュリオ・ザッパ先生。マキシムとは【Russian art songs】をいっしょに録音している。会場は3か所。名古屋の名ホール、しらかわホールが2024年の2月末に閉館とあって、そこは外せないということにもなった。
    広報は通常より早く、1年前から開始した。結果東京と名古屋はほぼ満席という、上々の集客はできた。

    私は東京と名古屋公演と名古屋音楽大学で開催された公開マスタークラスに出席した。

    ツアー中はホールリハの様子などをずっとアテンドをしていたNさんから写真を送ってもらい、すぐにSNSにアップするという作業をしていた。

  2. 02182024浜離宮朝日ホール 

    行ってびっくりだったのは、かなり業界人が多かったこと。ロッシーニ協会のおかげかと思われる。
    このホールも初めて行ったのだが、響きがよすぎてうるさいかんじ(名古屋だと、電気文化会館のコンサートホールに似ている)ピアノの音も硬くてちょっと耳に痛いかなと思った。
    マキシムの声は、今、絶好調と言っても過言ではないものだった。正確な音程、緻密なフレージングと巧みなアジリタ。
    圧巻はセビリアの理髪師、伯爵の大アリア。歌ってるご本人も満足そうだった。
    アンコール4曲のうち、聴衆をびっくりさせたのは日本歌曲の「この道」。事前に日本歌曲の候補は4曲あり、どれを選んだかは私も歌うまで知らなかった。
    完璧な日本語のディクションと意味づけに驚愕した。
    たいへんな喝采のうちに東京公演終了。

  3. 名古屋音楽大学マスタークラス 
    東京公演翌日は名古屋音楽大学での公開マスタークラス。マスタークラスをしたいというのはマキシムの希望でもあった。アカンパニストのザッパ先生は声楽コーチとして日本でも何度もマスタークラスをなさっている。このふたりを同時に講師とするのはたいへん希少な機会であったと思う。しかも通訳は*1テノール歌手の岡田尚之氏。受講者はテノール1名、バリトン2名。実際に舞台で歌った経験のある人たちだった。発声そのものより、その歌で表現するもの、正確な発音などが指導の中心だった。丁寧な母音、子音の発音指導を聞いて、マキシムの正確無比な日本語の発音の理由がわかった。音の上辺というより、その言語の発音をするための器官の位置などを正確にとっているため、音のつながりが自然で単語、文章として違和感のなく聞かせることができる。
    またザッパ先生の伴奏が素晴らしすぎた。歌唱指導に対して、何を要求せずとも必要な伴奏を繰り出し、伴奏ということすらいっさい感じさせない自然さで終始していた。歌手を目指す人だけではなく、アカンパニストの人にも有益なクラスだったと思う。私の後ろに座っていた学生と思しき人たちは「先生、背が高くてかっこいい~」とごもっともな感想を述べていたが…
  4. 22022024三井住友海上しらかわホール
    名古屋の中規模ホールの中でも抜群の音響の良さで知られていたしらかわホールが2024年2月末で閉館するということで、ツアーの最終公演はこちらのホールでと決まっていた。開館当時はホール独自のプログラムが素晴らしかった。マキシムのリサイタルはその頃のプログラムを思い出させるようなものだった。
    その前のマスタークラスのおかげもあってか、ほぼ満席で聴衆の集中力も上々。舞台の上と客席、双方の楽しさが伝わる舞台だった。名古屋だけ、東京だけを聴かれた方だとその違いがわからなかったと思うが、しらかわホールの響は非常に柔らかく繊細で、マキシムの「優美なテノール」そのものの声が堪能できたと思う。とりわけベッリーニの歌曲の美しさは、オペラアリアの華やかさと絶妙な対比で、プログラムの順番をひとつ変えた意味もよくわかるものだった。
    ピアノの音もこちらは柔らかく優しく響いていた。講演後にザッパ先生は「調律もベストだった」とおっしゃっていた。
    アンコールはこれまでと同じく「この道」を入れた4曲。ばらの騎士のテノール歌手のアリアや「女心の歌」、「忘れな草」。典型的な王子様キャラだから「女心の歌」はあんまり合ってないけど、定番だしね。いつかヴェルディとか歌うのかな。ほんの少しの憂いがある優雅な声でいつまでも歌ってほしいものだけど。
    日本のホールでは、だいたい写真撮影厳禁。マキシムはアプローズやアンコールの時は撮ってもらっていいと言っていたので、スタッフとして撮影させてもらうことにした。

    おかげさまで何枚か撮れた。
    マキシムは絶好調で、3公演まったく問題なく開催することができたのは本当によかった。日本と日本の聴衆が大好きな彼は、きっとまた日本に戻ってくるだろう。そして招聘、企画をやりおおせたNさんすごい!

*1:クラスはイタリア語で行われた