リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

The Tsar's Bride at Mariinsky II 25122017

f:id:Lyudmila:20171230202601j:plain  50ルーブル(約100円)のプレイビル。英語とロシア語版あり。

リムスキー=コルサコフのオペラは日本ではほとんど上演されない。ロシア圏でもそうしょっちゅうかかっているものでもない。
《皇帝の花嫁》は、シラー劇場とスカラ座で上演された舞台のDVDとブルーレイが出ている。


Tsar's Bride | Olga Peretyatko & Anatoli Kotscherga | Staatsoper Berlin 2013 (DVD/Blu-ray trailer)

あらすじ:イワン雷帝の親衛隊員グリャズノイは、美しいマルファを熱愛していた。しかしマルファには婚約者がいるうえに、皇帝の花嫁候補にまでなってしまった。なんとか自分に惚れさせようと惚れ薬を調達。ところが彼の愛人リュバーシャはそれを阻止しようと同じ医師に毒薬を調合してもらい、毒薬の方をマルファに飲ませる。即死じゃなくてだんだん具合が悪くなり錯乱していくマルファ。自責の念にかられてグリャズノイもリュバーシャも自分たちの悪事を暴露の後死亡。*1

Music by Nikolai Rimsky-Korsakov
Libretto by Ilya Tyumenev based on a scenario by the composer after the drama by Lev Mey

Conductor: Valery Gergiev
Vassily Sobakin: Stanislav Trofimov
Marfa: Albina Shagimuratova
Grigory Gryaznoy: Yevgeny Nikitin
Malyuta Skuratov: Vladimir Feliauer
Ivan Lykov: Yevgeny Akhmedov
Lyubasha: Olga Borodina

 今回の上演は演奏会形式。マリインスキー第2劇場のオケピは昇降式になっている。演奏会形式でも、オケは少しピットの位置を上げてそこにはいり、ステージ上には合唱団とソリストが配置されていた。

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序曲から、まさに「ロシアの音」。少しかすれたようなオペークな冷たさを感じる。ゲルギー親分が語っていた「帝政ロシア芸術の伝統」というのは確実にここにある。
ずいぶん歌っていないから勉強しなくちゃと言っていたZhenya*2のグリャズノイ。これが聞きたくてやってきたのだ。もともと過剰な演技をする方ではないが、演奏会形式になるとその傾向はもっと強くなる。そういう考え方なのかもしれないが、美しく歌うこと優先であってエモーショナルな表現というのがなくなるのだ。マルファの愛を手に入れられないとか、悪事を嘆くところ、リュバーシャとの痴話喧嘩もかなりおとなしかった。
これはBorodinaさんにも言えることで、もしかしたらマリインスキアンサンブルの伝統芸なのかもしれない。その淡々とした様子は、リュバーシャのアカペラで歌う悲しげなアリアには合っていた。Borodinaさんはまだそんな年齢ではないのに、舞台付きのオペラに出演する機会は減ってきている。もっといろんなところで歌ってほしいなあと思う。
対してはりきっていたのが、マルファ役のShagimuratovaで、さすがロシアの誇るコロラトゥーラソプラノ。圧巻だった。
登場アリアから色彩豊かで小鳥のさえずりのような可愛らしい歌声に、聴衆がひきこまれているのがわかった。ベルカントオペラが得意な人が歌って然るべき役なので、マルファのアリアは実に巧みで美しいものだ。
能力のある人で聞くと非常に魅力的である。Shagimuratovaはパーフェクトと言っていいだろう。
他の男声、女声陣ももちろんアンサンブルでのキャスティングなので、万全と言っていいものだった。
私はZhenyaをワグネリアンシンガーとしても愛しているので、マリインスキーの《オランダ人》や《ローエングリン》を観たいと思っていたし、今も思っている。
でもやはりロシアではロシアオペラを観るというのが正解かもしれない。
マリインスキーの古い方の劇場には行けなかったので、また近いうちにロシアオペラを観にきたいな。

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劇場にたどり着くまでの話も。
街中の通りはどこも渋滞しているらしいので、開演1時間20分前にホテルのコンシェルジュにタクシーを頼んだ。着物だということもあるし、往復送迎してほしいと言うと、スタッフは「マリインカ2ですね。開演は7時30分、上演時間は3時間ですね*3。帰りは終演時間にお迎えに行きます。行きと同じドライバーではない場合、ホテル名を書いたプレートを持っていきますから」とすぐ手配してくれた。しかしなかなか車は来ないし、劇場までもけっこう時間がかかり行くだけで1時間近くかかってしまった。渋滞していなかった帰りは10分くらいたっだのに。
マリインスキー新劇場は、4年前にオープンしたばかり。地下に大きなクロークがある。お手洗いも各階広くて数も多い。ホワイエも広くて内装はキラキラで明るかった。
終演後、エントランスに向かっている時に黒髪のロシアマダムに日本語で声をかけられた。「日本語センターで日本語を習っていたんです。でもだいぶ忘れてしまって」と恥ずかしそうにおっしゃっていたが、ずいぶんきれいな日本語だった。「そんなことないです、ハラショーです」と私もわけのわからないことを答えてしまった。

 

*1:イワン雷帝の何番目かの妻が結婚後すぐに亡くなってしまったという史実をもとに書かれたテキストということだが、ずいぶんむちゃくちゃな話だと思う。結婚式の途中で突如皇帝妃になるからと連れ去られてしまうのだ。薬のせいじゃなくてもおかしくなるんじゃないか。

*2:愛称で呼べと言われているので表記をこうすることにします

*3:私が依頼すると同時に検索していた