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リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Der fliegende Hollaender at Teatro Real Madrid 17122016

私の席はこんなとこ。2階上手サイドのはしっこだったため、舞台の半分以上は見えない。目の前にモニターがあるのでそれを見ればよし。オケピの上に位置するため、音は私の好きなかんじに聴こえる。リヨンオペラ等とのコープロだが、レアルでは新演出初日値段で高かったため、ちょっとケチってここにしたのだ。
平土間の席を買ってあった2回目をNikitinは降板したので、この日に舞台が見える席を買えばよかった…と思ったが、あとのまつり。

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Daland: Kwangchul Youn
Senta: Ingela Brimberg
Erik: Nikolai Schukoff
Mary: Kai Rüütel
Dalans Steersman: Benjamin Bruns
Der Holländer: Evgeny Nikitin

Conductor: Pablo Heras-Casado
Director:Àlex Ollé (La fura dels Baus)

* 休憩なし一幕構成。救済の動機あり

 パフォーマンス集団、La fura dels Bausのメンバーは、近年オペラの演出も手がける演出家たちとしても知られている。私が彼らを知ったのは10年程前に公開されて映画《パフューム》を観たのが最初だ。コンテンポラリーダンスとライティング、ビデオプロジェクションによるスペクタクル、サーカスっぽい、というのが作品の印象。
この《オランダ人》の演出と舞台美術は、若干おとなしめといえる。そして、ここまで読み替えるとは考えていない内容だった。

舞台はバングラディッシュの海港チッタゴン。現代において親による人身売買が普通に行われているのはここだから、という理由らしい。
のどかな港の風景はなく、あるのは砂漠のような場所、廃船の解体現場だ。
下手に大きな廃船の下半分が据えてある。天井ぎりぎりの高さから階段が降りてきて、そこからダーラントや船員たちが降りてくる。目をこらしても命綱は見えなかった。手すりをしっかりつかんで降りてくるのだが、かなり怖いんじゃないかと思う。
ダーラントは船旅はしていないので、歌われている内容とここで齟齬が出てくる。それはなんとか我慢して…。オランダ人は下手の廃船の底から登場する。これはわかりやすい。あきらかに幽霊船で、乗組員はおばけ*1だといきなりネタバレ。
わざわざチッタゴンを舞台にしているのだから、ダーラントはしょっぱなから娘を売る気満々だ。Kwangchul Younはものすごく巧い歌手だが、あこぎなおやじには見えない。
舞台装置の変換はいっさいない。ゼンタ含む娘たちは、糸紡ぎはせずに砂浜で何かを集めているようだった。ゼンタはオランダ人のポートレートを抱えており、ビーチパラソルの下、椅子に座っている。エリックはかろうじて猟師の風体に見えたが、ほんとは何をしている人のつもりかはわからなかった。
この舞台設定では、ゼンタはもちろんオランダ人を救いたいと思っているが、自分自身も「この世の地獄」の端から逃げ出したいという願望をもっていると見える。
最後、救済の場面でビデオプロジェクションによる海が映し出される。オランダ人はゼンタから少し離れた場所で波間に沈み、ゼンタはひとり舞台前方に歩きながら海に消えていく。オランダ人は救われたのか、誰にもわからない。
悪い演出だとは思わなかったが、舞台コンセプトのメッセージ性が高くて《オランダ人》を観たというよりもNHKの海外ドキュメンタリーを見たようなかんじだった。

演奏のほうは、というと Pablo Heras-Casadoの初ワーグナーで注目されていたのだが、まあはっきり言ってブー。テンポ設定がめちゃくちゃで、どうしてこうなるの?と思うところが多かった。だいたいが早めなので、わりとさくっと切り上げてじっくり歌うことがないNikitinには合わないこともなかったが、ゼンタは苦戦していた。Ingela Brimbergは、あまり知られていないが素晴らしいソプラノで*2 ひとつひとつの音符を丁寧に歌うタイプだし、フレージングも彼女自身のものを持っていると思うのに、指揮者はおかまいなし…。Kwangchul Younは、ピカイチの素晴らしさで、彼がダーラントでいてくれると本当に舞台が安定する。
Schukoffは、ローエングリンよりはマシかと思ったのは錯覚で、エリックもあんまりよくなかった。声が重すぎるのかもしれない。Aキャストでは舵取りのBenjamin Brunsが、Bキャストではエリックだったのでそちらのエリックの方が良かったらしい。主役ふたりは(少なくともゼンタは)良い出来映えだった。
題名役は後で、3カ所くらい音がきちんと決まらなかったところがあった、と言っていたが。
3年前にこのふたりの組み合わせで聴いたコンサート形式の公演からすると、声の印象はNikitinの音質に透明度が増し、Brimbergは少し重みが増したように思えた。

全体としては、稽古期間が長く、レアルのオケはワーグナー演奏に関してかなり優れているのに、本番で多少混乱しているな、というのが聴き取れるようなものだった。指揮者のせいですかね。

27日にラジオ放送があったのを録音はした。この日はNikitin(声の不調のため)が演技だけで、歌はT.J.Mayerだった。歌はともかく、演奏全体は幕を追うごとにバラバラになってしまい、えらいことになっていた。今回劇場で知り合ったレアルオケのバイオリン奏者Sさんによると、彼女のレアル演奏史上最悪の公演だったそうだ。

カテコビデオ

youtu.be

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休憩なし2時間半の公演が終わってから、楽屋口に行って待つことにした。ホテルはそこから歩いて1分くらいのところだし、何時間待っててもいいや、と余裕をかましていた。楽屋口の前に行くと、そこにいたひとりの日本人女性が(上記のSさん)初日のカクテルがあるからキャストとスタッフは出てくるのが遅くなること、それでも待つなら中の椅子にかけて待っているといいと教えてくれた。その後彼女は一度中に戻って再び出て来るとまだ待っている私に驚いて「誰待ってるの?あなたが待ってると言ってくるから」と、また戻ってfavouriteに伝えてくれ、「あなたは**(私の本名)さんなのよね?すぐ来るって!」と言いおいて、帰っていった。
ほどなくして出てきたfavouriteとキャストスタッフの皆さんと、そのまま二次会に。
いきなり素人で初対面の私がまぎれこんだのに、ビール買ってくれたりあれこれとおしゃべりしてくださってありがたかった。*3
「この髪の色、どう思う?」ときいてきた年輩の女性(上掲のカテコで赤い髪をしている人)は、ベルギー人で、もと二十世紀バレエ団で働いていた、と話し始めた。その頃日本公演に何度が行ったことがあると。私はこどもの頃二十世紀バレエ団が大好きで、おそらく彼女が同行していた公演も見ていたと話した。こんな場所でそんな昔の想い出を共有する人に会えて驚いたし、人生の出会いの不思議さを感じて嬉しかった。遅くまで開いてる店が他になく、人でぎゅうぎゅうのパブでも着物でいる私はひとめでわかる。「そこの日本の女の子、こっちによこして〜〜!」と誰かが叫ぶと、道が開くというのも着物効果?おもしろい体験だった。

*1:これは船員の役を演じていた役者が言っていたのだ。「ぼくは、おばけの役」と

*2:ミンコさんの「さまよえるオランダ人ダブルビル」CDでオリジナルのゼンタを歌っていた

*3:favouriteはというと、すっかり私の保護者で寒い中外にいるな、スペインなんだから手荷物に気をつけろなどという口出しばかりしていたのだ