リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Lohengrin@the MET 18032023

  朝のMET

François Girard: Production

Yannick Nézet-Séguin: Conductor
Tamara Wilson: Elsa
Christine Goerke: Ortrud
Piotr Beczała: Lohengrin
Evgeny Nikitin: Telramund
Brian Mulligan: King's herald
Günther Groissböck: King Heinrich

METの17年ぶりの新演出《ローエングリン》は、当初ボリショイ劇場とのコープロだった。実際に昨年4月、François Girard演出版はボリショイ劇場で上演された。しかしロシアのウクライナ侵攻により事実上両劇場の交流は途絶えたため、セットや衣装その他舞台に必要なものはすべてMETで制作し直しての上演となった。演出家は同じだが、ボリショイとのコープロの記載は消えていた。ハインリヒ王役のGünther Groissböckはボリショイ版にも出ていたが、モスクワから帰るのにたいへんなことになっていたらしい。
テルラムントのNikitinは出演が危ぶまれたが、METのGMは明確に親プーチンと見做されるアーティスト以外は拒否することはないとのことだった。
François Girardは10年前に《パルシファル》をてがけ、今回の《ローエングリン》は《パルシファル》の第2章と語っていた。私は《パルシファル》の舞台もちょうど5年前の再演の時に観ていた。たしかに、衣装や舞台装置、全体のコンセプトはパルシファルの踏襲のように見えたが、私は圧倒的に《パルシファル》の舞台の方が好きだと思った。

3月18日の公演はHD配信の日だった。日本では4月21日から映画館で公開されるのでお楽しみに。
3月2日の公演はラジオ放送があったので、先に聴いてはいた。その時にどうしたわけか全体に調和が欠け、《ローエングリン》らしからぬ演奏だなと思った。
実際にこの日に聴いたものは2日よりはマシだったが、Günther Groissböckの声の荒れといまひとつ品下がるところが気になってしかたなかった。次にかかる《ばらの騎士》おオックス男爵役の稽古と同時進行だったから、かなり負担なのではないかと心配してしまった。Brian Mulliganも《ばらの騎士》に出演予定の人で、こちらはどういうわけかイタオペみたいな伝令で、役柄的にそんなのでもいいのだろうけど、出てくるたびに「うるさ…」となってしまった。
Nikitinのテルラムント伯、久しぶりに聴いた声は精彩を欠き、以前の輝きと力強さが消えていた。彼は昨年8月27日に突然倒れ(本人は「一度死んだ」と言ってた)12月から歌うのを再開。おそらく完全に復調はしていないのだろう、今回のランも10回公演のうち出演したのは5回だった。今ではワグネリアンシンガーとしてはベテランであるし、《パルシファル》に出ていたのも彼だけだったので、他の歌手と比較すると舞台の進行に慣れていて芝居には余裕を感じた。剣さばきと死に方は相変わらずお見事。
あちこちでローエングリンを歌うようになったBeczałaのは初めてこの役を聴いた(前になるが、バイロイトで合唱で入っている人が「ThielemannがBeczałaとNetrebkoにローエングリン歌わせるって言ってるんだよ、どうよそれ?」と話していて、一同首を傾げていたのだ))。評価は高いだけあって上手い。声そのものは柔らかくてなんとなくフランスオペラの優男の雰囲気がするけど、フレージングは完璧。次はパルシファルを歌いたいそうだが、賢げでちょい軽めの声だからどうかな?
女声ふたりはどちらも声が強くてGoerkeは悪役がぴったり合ってた。この演出ではパルシファルでのクリングゾルにリンクしている役なので通常よりかなり悪い感じ。

《パルシファル》より装置は多くなっていて、見ものは合唱団とダンサーの衣装。私は最初ライトで色を変えているのかと思っていたのだが、白(ローエングリン)赤(テルラムント)緑(王様)と、状況に合わせて変えるため、内側が3色の布がレイヤードになっていた。なかなかそれを変えるのが大変そうだった*1
背景はプロジェクションマッピングで月や星空がうつされていてかなり綺麗。特に第3幕の名乗りの前、舞台転換ではカッコ良すぎて感動ものだった。
小賢しい心理的な要素はないので、舞台そのものを楽しんで観られるものだと思う。
最後に戻ってくるブラバント公も、子どもではなくて青年だった。エルザは不幸に終わるけど、もしかしたらハッピーエンドかも?と思える舞台だった。

カーテンコールの時に3色の紙が降ってきた。多分HDストリーミングの映え用。拾ってきた赤いの。

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《ローエングリン》公演が始まった後、SNSに突如白鳥の被り物にブラックスワンメイクの人の写真が登場して、何事かと思った方も多いかと思う。彼はLohengrin swan guyと名乗るMETファンの一人で、毎回出勤。この日は1階後方の席に陣取っていた。公演中は白鳥帽子は取るが、開演前や休憩中、終演後は楽屋口で、客の要請に合わせて一緒に写真に収まったりしていた。私も楽屋口で撮らせてもらった。写真は彼に必ず送らなくてはならない。

 

*1:実際リハの時に変えるタイミングを練習する時間をかなり取られたそうだ