リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

Götterdämmerung at Opernhaus Zürich 09112023

私は《神々の黄昏》が好きだ。圧倒的にコスパがいいからである。Vogtさんのジークフリートデビューを聞いてみたいこともあって、出かけることにした。初日と二日目のきっぷを購入してあったのだが、初日には行かないことにしてミュンヘンに仕事で行っている友人に譲った。*1その友人はオペラを見るのが初めてだと言っていたが演劇をやっていたそうで「オペラがこんなに演劇的なものだなんて!」と感激していた。現代のオペラ歌手の演技力に心底仰天したらしい。「ジークフリートの人は、ただもんじゃない」と言うのに笑ってしまった。確かにVogtさんはただもんじゃないけど。

 

Siegfried: Klaus Florian Vogt
Gunther: Daniel Schmutzhard
Alberich: Christopher Purves
Hagen: David Leigh
Brünnhilde: Camilla Nylund
Gutrune: Lauren Fagan
Waltraute: Sarah Ferede
Erste Norn: Freya Apffelstaedt
Zweite Norn: Lena Sutor-Wernich
Dritte Norn: Giselle Allen
Woglinde: Uliana Alexyuk
Wellgunde: Niamh O'Sullivan
Floßhilde: Siena Licht Miller
Wotan: Wolfram Schneider-Lastin
Stunt: Valentin Lendenmann
Philharmonia Zürich
Chor der Oper Zürich

Music Direction Gianandrea Noseda
Producer Andreas Homoki

指揮者の Nosedaはリングを振るのは初めてとのことだったが、これは一体どうしたことかと思うくらい、バカデカ音で本当にびっくりした。
ロールデビューの歌手が多いのにお構いなしか…と。
主役二人はロールデビューとはいえ、ワーグナーを歌い慣れているので、オケの騒音を乗り越えてくるが、ギービヒ兄妹はよほど注意して聴いていないと声が聞こえなかった。まあまあ大丈夫だったのはハーゲンくらい。アルベリッヒは歌唱演技とも上々だった。ブリュンヒルデCamillaさんは、いつものCamillaさんだった。この方はなんでも歌えてしまってすごいのだけど、いつでもCamillaさんなのだ。優等生で美しい元の属性がキャラクターにはまった時は役に見える。声のレンジもブリュンヒルデに合っていてこれは実にハマり役だと思った。
Vogtさんの声はタンホイザーを歌い始めてから、だんだん重くなって今や超弩級のヘルデンテノールに聴こえる。唯一無二のホワイトヴォイスヘルデンが変わってしまったのはちょっと寂しい気がした。
それでも彼の歌唱の物語性とでも言うのだろうか、キャラクターそのものに聞こえてしまうのは健在で、ジークフリートのビルドゥングロマンとして見事に表現していた。
演出が私はかなり気に入らなかったので、見どころはアルベリッヒとハーゲンの対話だった。あとは黙役のヴォータンがワルトラウテの訪問の場面と、幕切に出てくるのだが、役者の背中の演技が素晴らしかった。カテコで登場した時もかなり拍手が大きかったので、聴衆は皆そう思ったのだろう。
舞台はそう見苦しいものではなかったが、演出コンセプトが全く分からず。ホームドラマっぽいかな。回り舞台を使って場面転換する以外は、一旦緞帳を下ろして装置を変えるのにはかなり興醒めだった。もっとも嫌だったのは、ジークフリートの葬送のところで緞帳…。ここで何も見せない演出って珍しいのではなかろうか。演出家の腕の見せ所だと思うんだけど。*2
ブリュンヒルデの自己犠牲では、スタントのローゲが火だるまになって現れたりして、これも何をしたいのか。危ないじゃん!

カテコで。かっこいいヴォータン

大健闘、ブリュンヒルデ

ただもんじゃないジークフリートと影の薄いグートルーネ。後ろの合唱のみなさまもデカ声で頑張っていた。

グンターに不満だったので後でZhenyaに愚痴ったら「あの劇場はワーグナー作品上演できるほど大きくない」と言っていた。

私の席は2階のボックスの前列だった。隣にいた女性が私の着物を見て「着物すてきね。私、京都に行った時に着物きたわよ。それでね、抹茶ばっかり飲んでたの。飲みすぎて眠れなくなっちゃった」などとしてくれた。以前も日本で着物を着たという人に会ったので、とりあえず日本に旅行したら着物着るというのは決まっているのだろうか。

劇場に入る時は雨が降っていたが、帰りには止んでいた。11月初旬で日本は暑かったが、この時点ではチューリヒもそんなに寒くはなかった。

*1:ジャーナリストの研修で新聞社に籍を置いているので、担当分野は異なるが興味を持ってくれるだろうと思ったのだ

*2:バイロイトのChéreau演出では、この場面はホロコーストの犠牲者が次々と現れて、最後は舞台から客席をじっと見つめている、いう衝撃的なものだった。映像で見ると人々の顔がアップでオーバーラップになっていて余計にその悲しみと理不尽さを見る人に感じさせるようになっていた