リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

IDOMENEO at Royal Opera House 24112014

アムステルダムで『ローエングリン』を観る間に一泊でロンドンに行き、コヴェントガーデンで『イドメネオ』の最終公演を観てきた。
CTのFranco Fagioli がイダマンテを歌うし、Minkowski もROHデビュー。行かずばなるまい。前日オペラ後にMinkowski についてあれこれ*1話したことを思い出しながら、同行するオペラ仲間たちとの会合*2場所を確認するためコヴェントガーデン付近を歩いていると、私好みの熊さんみたいなおじさんがやってくるのが見えた。どっかで見たことあるな〜、と近づくと当の Minkowski だ。「Maestro Minkowski!!」と手を振って声をかけると、なんだかとてもうれしそうに「おお〜」と応えてくださった。「今晩イドメネオに行きます〜」「そーかい、good music, strange staging だよ〜」「でも私はその舞台が好きだと思います」「こないだ来た日本の友人も気に入ったって言ってるんだよ、そんなもんかなあ?」「Maestro の演奏だったらきっとすてきです。楽しみにしてますから!」「はいはい、それじゃまたね」

 

f:id:Lyudmila:20141130180702j:plain  © ROH.Catherine Ashmore

Franco Fagioli as Idamante and Sophie Bevan as Ilia

Idomeneo: Matthew Polenzani
Idamante: Franco Fagioli
Ilia: Sophie Bevan
Elettra: Malin Byström
Arbace: Stanislas de Barbeyrac
High Priest: Krystian Adam
Voice: Graeme Broadbent

Conductor: Marc Minkowski
Orchestra: Orchestra of the Royal Opera House
Chorus: Royal Opera Chorus
Director: Martin Kušej

strange staging と言われた演出家 Martin Kušej も今回がROHデビューだ。
下着姿の人物たち、回転する舞台と赤、黒、グレーの装置*3と長方形の空間、血塗れでエロい、といういかにも Kušej な舞台だったのだが、ヨーロッパで観る他の作品のものと比べると、エログロ度はかなり低いと思った。下着の人もそんなに出てこない。
ネプチューンとか海の象徴がサメや魚なのは、チープなかんじであまりおもしろくもなかった。
このようなスタイルに合わせて、物語は現代の小国での父子の権力抗争として読み替えてある。革命的な自由主義的思想の息子役は、そのためにあえて通常この役をつとめるメゾではなくカウンターテナーにしたとのこと。芝居としては若い男性のイダマンテというのはかなりぴったりでおもしろかった。
しかしレジーテアターになれていないのか、ロンドンの観客はお気に召さなかったようで、最終公演なのにしつこくブーイングしている輩がいた。

演奏はとにかく Polenzani の圧勝。5回ご覧になったロンドンの椿姫さんによると、この日は出来がよくなかったとのことで、他の日はどんだけ立派だったんだ…。私にとっての Polenzani って、マイスタージンガーのダーヴィットだったりするので、この立派なイドメネオに心底感心してしまったのだ。説得力のある完璧にコントロールされた歌唱だった。女声陣はあまりぱっとしなかったが、エレットラのMalin Byström は以前ここで観た『ファウスト』のマルガレーテよりよかったような気がした。黒のセクシーな衣装に黒髪のボブという拵えもかなりかっこよかったし。 
アルバーチェの Stanislas de Barbeyrac にもびっくりしてしまった。通常カットされるアルバーチェのアリアを突然ばかでっかい声で歌うのだ。あまりにもよく響く声なので、うまいのかどうかよくわからない。あっけにとられているうちに終わってしまった。
狂言回しの大神官の Krystian Adam も「どこが神官?」という出で立ちだったが、器用な歌い回しと芝居で抜群の存在感だった。
ネプチューンの「声」もその場に出てくるという、象徴的なものが前に出てくる演出だな〜と思った。
さて目当てのイダマンテであるが、気の毒なことにヨーロッパであれほど高評価を受けているのに英国ではいまひとつだった*4
他の歌手とまったくスタイルが違うのだ。いかにもバロックの歌手がモダンな演奏の中に混ざっている違和感があった。見た目は演出家の意図どおり、舞台のコンセプトに合っていていいのだが、歌いだすと「こ、これはヘンデルのオペラだったか?」の世界になってしまうのだ。
私はアンフィシアターの席で、比較的よく聞こえる場所のせいか音量の差はそれほど気にならなかった。スタイルのみならず、モダンピッチの演奏のうえ、音域が Fagioli のカバーする音域の高い部分によっている。彼の最も魅力がある中音域から低音域がまったく聞かれないというのはもったいないことだ。
Minkowski は、この役はメゾソプラノでという意見だったそうだ。音楽的にはそれが自然であろうと思う。

私はロイヤルオペラのオケ*5に対して期待値が低いのだが、今回は軽くそれを凌駕していた。Minkowski の素晴らしい力量だ。きっとばしばし細かくダメ出ししたのであろう。指揮者であんまり変わらないオケもあるのだけど、ここのオケはかなり変わるんじゃないか?
合唱は前日のDNOが断然優れていた。演目のせいもあるだろうけど、なんだかダラダラした合唱陣だった。
また、最後のバレエ曲もカットされずに演奏されたが、バレエはなくて舞台が回転してるのを見てる態になるのはちょっとたいくつだった。

 

*1:例の「オランダ人」ダブルビル録音の苦労話…誰かさんはとても大変だったそうな

*2:ロンドン在住Primroseさんのアレンジで、6人でとっても楽しいプレシアター食事会ができた。ありがとうございました。

*3:衣装もだいたい赤、黒、白

*4:このオペラ公演の前にウィグモアホールであったリサイタルはたいへん好評だったのに

*5:というか英国のオケ全般