リュドミラ音楽・ひとり旅日記

Give every man thy ear, but few thy voice.

音楽博物館 Musée de la musique

ホールに附属して楽器博物館があるところは少なくないが、Cite de la Musique の中にある音楽博物館は、新しいうえにかなりの規模だった。
入場料は定期会員(3回コンサートチケットを購入すればなれる)割引で5€。オーディオガイド付き。オーディオガイドは日本語はないけれど、展示してある楽器の音が聴けるので借りたほうがいい。
時代ごとに楽器の展示と解説ビデオが見られるようになっている。中世期の階で大量の弦楽器の中をさまよっていると、ちょっとした舞台と椅子の並んでいるエリアに出た。小さなサインボードにミニコンサートの案内があり、1回目が11時と記載したあった。
ちょうどその時刻。私を含めて4、5人が並べてある椅子に座った。
すぐに演奏者がやってきて「前の方に来て座ってください」と促した。舞台のすぐ前にも椅子があったのだ。

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スピネット群の前の椅子

「中世トルバドゥールの歌を演奏します」と言うと彼女はヴァイオリン状の楽器を弾きつつ歌ってくれた。これが素晴らしく巧かった。私は中世音楽もフォークロアも大好きなので、このあまりのラッキーさにどきどきした。

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Domitille Vigneron


演奏が終わってから「その楽器はいつの時代のものですか?」と尋ねると「12世紀。 vièle っていうの」と教えてくださった。民族音楽に広く使用された中世フィドルの仲間だ。彼女はもともとヴァイオリンが専門のようだった。「演奏、素晴らしかったです」と言うと「トルバドゥール(Troubadour)の歌よ。よかったらCDがあるから下のショップ*1で買ってね」とにこにこ宣伝。足元に3枚CDが置かれていたのは気づいていたが、彼女のものとは思わなかった。
彼女の名前はDomitille Vigneron アンサンブル名はFlor Enversa

www.flor-enversa.com

中世そのままにオック語*2でのトルバドゥールの演奏を各地*3 で行っており、そのための研究と楽譜の再現をしているらしい。教会や学校でのコスチュームプレイが主な演奏活動とのこと。

ミニコンサートを聴いた後は、順番通りに展示を見てまわり、最上階の現代音楽コーナーで半世紀前の巨匠たちの現代音楽演奏のフィルムをゆっくり鑑賞した。

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シンセサイザーの歴史




私は開館してすぐ入ったので、他の見学者が少ないのかなと思ったのだけど、もしかしたらいつもたいして人が入っていないのかもしれない。
中身も充実して興味深いミニコンサートもあり、落ち着いて見られるいい場所だな、と思った。

*1:言われたとおりミュージアムショップのCDコーナーを探したがなく、迷っていたらレジの前にあった。アーティストの意向ということで現金での支払いを求められた

*2:オクシタン語(フランスのコスメブランド「ロクシタン」と同じですね)南フランスで主に使用されていた少数言語。カタルーニャ語に近く、現在でも話者がおりアイルランドのゲール語のように、その言語で歌を演奏するグループもいる

*3:スペイン、イタリア、フランスに渡るオック語圏

驚異のカウンターテナーズ&テノール Artaserse @ Oper Köln 27.12.2012

ナンシーを皮切りにツアーの先々で激賞されてきた『アルタセルセ』プロジェクト。 最終日に突撃してまいりました。
ケルンオペラは現在改装中で、まんまミュージカル用のテントのような仮小屋が中央駅のすぐそばにあります。 キャッツシアターの中に、オペラ劇場の座席が並んでいる状態を考えてください、そんなかんじ。
ミュージカルを想定しているのでしょうから音響板なし、音響調整たぶんなし。 外の音(救急車のサイレン) 聞こえる、と必ずしも良い条件とは思われませんでしたが、ダイレクトで真摯な演奏を聞くことができたと思います。 それぞれの生の音、声の個性がよくわかりました。
チケット完売につき、ほんとに満席。

Leonardo Vinci   ARTASERSE

Artaserse : Phillipe Jaroussky
Mandane : Max Emanuel Cencic
Artabano : Juan Sancho
Arbace : Franco Fagioli
Semira : Valer Barna-Sabadus
Megabise : Yuriy Minenko

Conductor : Gianluca Capuano
Orchestra : Concerto Koeln

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Cecilia Bartoli sings Handel @バービカンホール 8/12/2010

Franco Fagioli 来日記念につき、以前のブログから移植してきました。文体が今と違うのが笑えますが、とりあえず。

前々日中部国際空港から出発するとき、チェックインカウンター前で若いドイツ人マエストロを見送りにきた師匠に遭遇。 当然どこに行くのか訊かれるわけですが、ドイツ人マエストロはカウンターテナーはよく知らないみたいで、バルトリを聴くんだと言ったら「それはいいね~」とおっしゃってました。 師匠はバルトリのヘンデル自分も聴きたいと騒いだあと、共演のフランコ・ファジョーリに対して「名前からしてカストラートみたいだから、そりゃきっとええで。」エ?ソウナノ…(@Д@; それ、ファリネッリ…。  

さて椿姫さんのおかげで今回も最前列中央席。 人気公演ですぐ売り切れてしまっていましたし、ありがたや。 感謝百倍です。 バルトリ姐はお姫様ドレスが好きみたいだけど今日はどんなのかしらね、とわくわく。 椿姫さんとご友人といっしょに着物で行かれればよかったけど、結局この日は3人とも洋服で出向きました。 
最初にバーゼル室内管弦楽団のリーダー、ジュリア・シュレーダーが颯爽と登場。 いきなり台にけつまづいて転びそうに。 しかしすばやく体勢を整え、元気よくにこにこ。 会場の笑いを誘い、つかみはオッケーな状態。 この方、色白でゴムまりみたいな雰囲気なんです。 半身をきゅっきゅっとひねってガシガシと演奏する姿がたいへんにチャーミング。 「さあっ、演奏するわよ!」「よっしゃ、上出来!」ヽ(´▽`)/ と、ずーっとそんなかんじ。 音そのものはアグレッシブではなく非常に流麗で上品でした。

前半のバルトリ姐のお衣装は黒の比較的シンプルなドレスで、なかなかスマートに見えます。 
ほんとうにこのひとはすごい! オペラで聴くと怖いと思えるほど感情がぎゅっとつまっていますよね。
コンサートでも、曲にはいりこんであたりはばかることなく怖い顔したりするんですが、間に見せる笑顔はとてもかわいい。 (イタリア歌曲を歌う彼女のたおやかでかわいらしい表情を思い出してください) そしてどこから声が出てるの~と不思議に思います。 お口が大きく動くわけでもなく、のどがゆれることもないのに、ぱあっと音が流れ出てくるのです。 どんな華やかな装飾もらくらくと次々に出てきます。 声が出てくるのが見えそうな気がして、彼女の口元をぽかーんと見つめ続けてしまいました。

後半はいよいよ新進カストラート(じゃなかったカウンターテナー)ファジョーリを伴っての「ジュリオ・チェーザレ」抜粋。 椿姫さんと「フラちゃん楽しみだね~。」と待っていたひとであります。 バルトリ姐は明るい黄色のスカートとビスチェのお衣装にお召しかえ。 クレオパトラっぽくなきにしもあらず。 
チェーザレといえば「va tacito e nascosto」。 ホルンといっしょに勇ましく歌いだすファジョーリ、声質そのものはさほど好きとは思えないけれど(私の好みではないだけです)、発声がどのレンジでも均質。 特に低音域が自然なのでこのひとはテノールが地声なのかな? 技術も正確でへんなゆれがないとこがいいし、かなり男性的な印象を受けました。 歌っているときに彼は左足に力をいれ、ぎゅっとこぶしをにぎりしめています。 森進一? それにとにかくお目目をギョロギョロさせて表情を作るので、間近で見ているとその顔芸に笑えてしまって困りました。 フラちゃ~ん、気持ちはわかるけど無理しないで~。 若いし、小柄でとっても可愛らしいのでバルトリ姐さんにあわせて英雄っぽくするのはたいへんでしょ~。 でもふたりの声はとても似合っているんです、最後のデュエットもお見事。 バルトリ姐も実にうれしそうで、素晴らしいコンサートは終わりました。 アンコールはまたva tacitoとリナルドのデュエットだったと思うけどバルトリ姐がなにを歌ったかわすれちゃった。(*_ _)人ゴメンナサイ

 

追記 : アルチーナさん情報 バルトリアンコール曲はたぶん「Son qual nave」

Götterdämmerung (Le Crépuscule des dieux) at Philharmonie de Paris 23092018

リング4作品の中で最長の《神々の黄昏》を、演奏会形式で聴くにはかなり忍耐がいる。私はこの作品が大好きであるし、妙な演出ならない方がいいので演奏会形式大歓迎だが、登場人物が誰かわかるようなアイコンがあるといいなと思った。マリインスキオペラの親分Gergievが育てたワーグナーチルドレンの精鋭がこの日舞台に乗っていた。男性キャラクターのスキンヘッド率80%*1聴き分けはつくが見分けがつかん!いや、もう舞台なんかないんだから見るなってことか!

Orchestre et Choeur du Mariinsky
Valery Gergiev, direction
Tatiana Pavlovskaya, Brünnhilde
Mikhaïl Vekua, Siegfried
Roman Burdenko, Alberich
Olga Savova, Waltraute
Elena Stikhina, Gutrune
Evgeny Nikitin, Gunther
Mikhaïl Petrenko, Hagen
Zhanna Dombrovskaya, Woglinde, Third Norn
Irina Vasilieva, Wellgunde, Second Norn
Ekaterina Sergeeva, Flosshilde, First Norn
Marina Mishuk, chef de chant
Pavel Petrenko, chef de choeur

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Siegfried at Philharmonie de Paris 22092018

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フィルハーモニー前のデジタルサイネージ

マリインスキー劇場の引っ越し公演で昨シーズンにリング前半、今シーズンで後半を上演することになっていた。
Gergiev親分は、国外でワーグナーの作品を主に演奏会形式だが、上演することに非常に熱心だ。ドイツ人の歌手を招ぶこともあるが、自身で育てた立派なワグネリアンシンガーもマリインカにはたくさんいる。
Orchestre du Mariinsky
Valery Gergiev, direction
Mikhaïl Vekua, Siegfried
Andreï Popov, Mime
Roman Burdenko, Alberich
Elena Stikhina, Brünnhilde
Evgeny Nikitin, Le Wanderer
Mikhaïl Petrenko, Fafner
Zlata Bulycheva, Erda
Anna Denisova, Waldvogel
Marina Mishuk, chef de chant

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Ensenble Artaserse - HAENDEL: Emöke Baráth & Philippe Jaroussky at Philharmonie de Paris 21092018

というわけで、2階の最前列に着席。地元パリで大人気のPJであるから、客席はほぼいっぱいだった。金曜日の夜で開演も遅い時間だったが後からやって来るお客さんもかなりいた。この新しいホールはベルリンフィルハーモニーを有機的にした感じだ。さすがに竣工時期が半世紀違うのだから席のたどり着くのはベルリンフィルよりずっと簡単だった。どこの席でも舞台がよく見えて音響もいい。私はホールに耳が慣れるのに少し時間がかかるタイプなのだが、ここは最初から最後まで印象が変わることはなかった。

Georg Friedrich Haendel
Ariodante, Ouverture
Ariodante, Air "Qui d'amor"
Ariodante, Duo "Prendi da questa mano.."
Lotario, Air "Scherza nel mar la navicell"
Concerto grosso op. 6 n°4, "Larghetto affettuoso"
Parnasso in festa, Récitatif "Dopo d’aver perduto"
Parnasso in festa, Air "Ho perso il caro ben"
Concerto grosso op.6 n°5, "Allegro"
Almira, Air "Geloso lamento"
Giulio Cesare, Air "L’aure che spira"
Concerto grosso op. 6 n°5, "Largo"
Rodelina, Duo "Io t’abbraccio"
Concerto grosso op.6 n°5
Serse, Duo "Troppo oltraggi la mia fede"
Serse, Air "Se bramate d’amar"
Concerto grosso op.6 n°8, "Adagio"
Giulio Cesare, Récitatif "Che sento?"
Giulio Cesare, Air "Se pieta di me non senti"
Concerto grosso op. 6 n°8, "Andante allegro"
Ariodante, Récitatif "E vivo ancora"
Ariodante, Air "Scherza infida"
Scipione, Air "Scoglio d’immota fronte"
Concerto grosso op. 6 n°11, "Allegro" (cinquième mouvement)
Ariodante, Duo "Bramo haver mille vite"

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またまたパリ

6月末に続きまたパリに行ってきた。今回は19区のフィルハーモニー・ド・パリへ。
3夜連続でコンサートを聴いてきた。パリ市内北東の端にあるため、CDG空港からはタクシーなら30分程度で到着する。18:20頃に空港到着。荷物をピックアップしてタクシーに乗車したのが18:55 ホテルには19:30着。コンサートホール内までは徒歩10分*1 その日のコンサートは20:30から開始のため余裕で着替えて出かけられるはずだった。
カードキーを受け取って、部屋に入ってびっくり。先客がいたのだ。
鍵はあっさり開いたので私が間違えたわけではない。先客の男性はおそらくロシア人、しかもどこかで見たような…? 「間違えられたかな?君のルームナンバーは?」「これです」「同じだね、わかった。レセプションに連絡するよ」*2電話を終えて「君はレセプションで、新しい鍵をもらってね、じゃ」私はレセプションに戻り平謝りのスタッフから正しいキーとお詫びのギフトボックスをもらって、また客室階に戻った。これで15分ほどロス。
あわてて着替えて顔を洗ってメイクをし直して出かけた。大ホールはとにかくホワイエと通路が広く、席にたどりつくまでもけっこう時間がかかる。ホテルを出てから15分でなんとかなった。ぎりぎりに着席。この夜のコンサートはカウンターテナーのPJことPhilip Jaroussky とソプラノのEmöke BARÁTHのヘンデルプログラム。演奏はPJのアンサンブルであるArtaserse 鑑賞記はまた次回。

*1:目の前のホテルからは3分で行ける、とよく記載されているがそれは複合施設シテ・ド・ラ・ムジークの入口までのことである

*2:電話して彼が名乗っていたのでマリインスキ劇場のソリスト、Roman Burdenkoだとわかった。知ってるような気がするわけだ。実際に知り合いじゃないけど